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「……ふふ、本当に貴方という人は。心が欠落しているというより、最初から人間として設計されていないみたいね」
私はドレスの袖を汚さないよう細心の注意を払い
指先に伝わる「数時間前まで人間だったもの」の不快な重み、そしてまだ微かに残るぬるい体温を感じながら、彼から手渡された処理物を受け取った。
普通の令嬢であれば、この光景を目にしただけで絶叫して狂い死ぬか、胃の中のものをすべてぶちまけるだろう。
けれど、実父からの歪んだ教育を受けてきた私にとって、それは単なる〝掃除〟にしか見えなかった。
死とは単なる状態の変化であり、肉体とは使い古された器に過ぎない。
彼がなんの理由があって殺すのかは深く聞く気もないけれど、彼にとっては忌々しくて楽しい夜なのかしら。
◆◇◆◇
ガガガガ、と、地響きのような重々しい振動が地下室の壁を震わせる。
ミキサーの超硬質の刃が、抵抗なく骨を砕き、繊維質な肉をすり潰していく。
名前、地位、過去、そして傲慢なプライド。
それらすべてが均一に混ぜ合わされ、かつて「人間」と呼ばれていたものは
ただの無機質な「赤い液体」へと姿を変えていく。
アルベルトは無表情のまま、その液体を排出口から下水道の奥深く、光の届かない闇へと流し込んでいった。
その流れるような動作には、一つの無駄も、一切の感傷も含まれていない。
「恐怖を感じませんか? エカテリーナ」
流れるような動作で作業を続けながら、アルベルトが不意に私を問いかけた。
その視線は手元に固定されたままで、声には好奇心さえ混じっていない。
私は、タイルの上に広がった血を洗い流すために
バケツの冷たい水を汲み上げながら、静かに微笑を返した。
「恐怖? まさか……面白いまであるわ」
「奇遇ですね。私も、貴方がその白い手で、私の『罪』という名の汚れを洗い流してくれるのを眺めていると…〝同じ人間〟だと思えて面白いですよ」
二人の間に流れるのは、甘ったるい愛でも、安っぽい情でもない。
ただ、同じ地獄の底を歩む者同士の、絶対的で純粋な共犯関係。
私たちは言葉を交わす必要すらなく、機械のように正確に
この世から特定の個体が存在したという証拠を消し去っていった。
アルベルトの動きに乱れはない。
彼は私を、守るべき「女」としてではなく、この清掃という目的を完遂するための高度な「機能」として扱っている。
その冷徹さが、今の私にはこの上なく信頼でき、救いのように感じられた。
やがて、窓の隙間から白々とした予感が差し込む。
朝日が昇る直前。