テラーノベル
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激しいキスの応酬のまま、僕たちは吸い寄せられるように、薄暗い物置部屋へと雪崩れ込んでいた。鍵をかけるのももどかしい。煉は僕を壁に押し当て、今度こそ僕をすべて手に入れるように、狂おしいほど深く口づけを繰り返す。「ん……ぁ、んっ、れん……っ」
男子制服のカッターシャツが、乱暴な手つきで剥ぎ取られていく。昨日煉がつけた赤い痕のすぐ隣に、また新しく、熱い熱が押し当てられた。
「律、律……。嫌だよね、ごめん……。でも、もう離せない。誰にも触らせたくないんだ。お前が僕を恨んでも、僕は……っ」
煉の切れ上がった瞳から、また大粒の涙が零れて、僕の鎖骨へと冷たく落ちた。僕の気持ちが分からないから、あいつは「自分が嫌われること」を前提にして、それでも僕を独占しようと泣いている。
泣きながら僕を抱こうとする、不器用で、重すぎるイケメン。
その涙に濡れた顔を見つめた瞬間――僕の頭の中で、張り詰めていた何かが、パチンと音を立てて弾けた。
(あぁ……なんだ、そうか)
ストン、と腑に落ちるように、胸の奥のモヤモヤがすべて消え去っていくのが分かった。
僕は自分のことを、過酷な現実から逃げたくて、あいつの体温に依存しているだけの「汚い人間」だと思い込んでいた。だけど、違う。完璧な他人のフリをされたあの朝、視線すら貰えなかったあの昼休み。あいつのいない世界が死ぬほど寒くて、孤独で、寂しくて堪えなかったのは、依存なんかじゃない。
ただの依存なら、あいつに嫌われるのが怖くてこんなに胸が痛むはずがない。あいつの流す涙を、今すぐ全部指で拭ってあげたいなんて、思うはずがないんだ。
「……ねえ、煉」
僕は、煉の涙で濡れた頬を、自分の両手でそっと包み込んだ。驚いたように煉の動きが止まる。
「怖くないよ。恨むわけないじゃん」
「え……?」
「わからないって言って、ごめん。……僕、煉のことが好きだよ。依存とかじゃなくて、本当に、好きなんだ」
生まれて初めて口にした、本当の「恋」の告白。
その瞬間、煉の瞳がこれ以上ないほど大きく見開かれた。あいつの時間が、ピタリと止まったかのように。次の瞬間、煉の目からさらにボロボロと涙が溢れ出した。だけど今度は、絶望の涙じゃない。僕の言葉が、あいつを地獄から救い出したのだ。
「律……っ、嘘じゃないよね? 夢じゃないよね……っ?」
「嘘じゃないよ、煉……っ、んむ……」
あいつの引き締まった身体が、今までにないほどの強さで僕を圧し潰す。だけど、そこにさっきまでの怯えや焦りはもうなかった。ただひたすらに、僕を愛おしくて堪らないというように、深く、優しく、そして僕の全身を蕩かすような濃厚な熱が、夕暮れの部屋に満ちていく。
それから、夕暮れの街を、僕たちは手を繋いだまま走り抜けた。
連れてこられたのは、住宅街の奥にひっそりと佇む、大きくて冷たいコンクリート造りのお屋敷だった。煉が引き取られたという名家の家。どこか息が詰まるようなその場所で、煉は僕の手を引いて、一番奥にある自分の部屋へと滑り込み、静かに鍵をかけた。
カチャリ、と音が響いた瞬間、部屋の明かりもつけないまま、僕は煉に強く抱き締められていた。
「……やっと、2人きりになれた」
煉の声は、昼間の優等生の仮面を脱ぎ捨てた、低く落ち着いた響きを持っていた。
カーテンの隙間から差し込む街灯の光の中に、煉の端正な顔が浮かび上がる。その瞳は、深い慈しみと、僕を二度と離さないという強い決意に満ちていた。
「煉……」
「律、もう誰の目も気にしなくていい。お前と心から向き合いたいんだ……」
そう囁く煉の手は、微かに震えている。僕を大切にしたいという想いと、内側に秘めた孤独が混ざり合っているようだった。そんな彼の姿に、僕の胸は愛おしさで満たされる。
「いいよ……。煉となら、どんな未来も怖くない」
草(腐)。
193
#ゆあんくん
モコビリ ❨低浮上❩
16,412
𝐋𝐢𝐜𝐡𝐭
1,296
僕たちは静かに寄り添い、お互いの存在を確かめ合うように深い抱擁を交わした。そこには、言葉以上の確かな繋がりがあった。
今まで感じていた孤独や、世界の冷たさが、彼の腕の中にいるだけで遠ざかっていく。お互いの鼓動が重なり、静かな部屋に二人の呼吸だけが響く。
煉は僕の瞳をじっと見つめ、何度も愛を伝えてくれた。その言葉の一つ一つが、僕の心の傷を癒していく。
僕たちは孤独で、世界は時に不条理だ。
だけど、お互いを求め合うこのドロドロとした重い愛だけは、世界で一番、綺麗で、確かだった。
コメント
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このエピソード、すごく良かったです。冒頭から煉くんの「泣きながら抱く」という不器用な愛し方が胸に刺さりました。依存と恋の違いに気づく律くんの「ストン、と腑に落ちる」感覚の描写がとても自然で、思わず息を呑みました。お互いの心の傷を抱えながらも「ドロドロとした重い愛」が世界で一番綺麗だと言い切るラストの潔さ、好きです。煉くんの仮面を脱いだ低い声、めちゃくちゃ良かった…!続きが気になります。