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勇斗side
今日の仁人は、少しだけ変だった。
……ような気がする。
別に、何か決定的におかしいわけじゃない。
いつも通り喋っているし、いつも通りツッコんでいる。
仕事だって問題なくこなしている。
だから、気のせいだと思っていた。
疲れてるのかもしれない。
機嫌が悪いのかもしれない。
まあ、あとで聞けばいい。
そう思っているうちに、一日の仕事が終わった。
柔太郎と舜太が先に帰る。
少しして、大智もマネージャーに呼ばれて楽屋を出ていった。
残ったのは。
俺と仁人だけ。
なんとなく、嬉しくなる。
今日は朝からずっと一緒にいたのに、二人きりになる時間がほとんどなかった。
もちろん仕事中だから仕方ない。
人前ではいつも通りにしている。
付き合っていることは、メンバーにも言っていない。
だから、こうして二人きりになった時くらいは。
少しくらい、いいだろ。
仁人はソファに座ってスマホを見ていた。
俺は少し離れた椅子から、その横顔を見る。
やっぱり。
なんとなく今日、距離あったよな。
「仁人。」
「何?」
いつもの返事。
気のせいか。
俺は立ち上がって、その隣へ座った。
「疲れた?」
そう聞きながら、頭へ手を伸ばす。
すると。
「ひっ。」
避けられた。
「……。」
伸ばした手が、そのまま宙に残った。
「……何?」
「いや。」
いやって。
今、避けたよな。
「……。」
「……。」
仁人は気まずそうに俺を見ると、何事もなかったみたいに姿勢を戻した。
「なんでもない。」
なんでもなくはないだろ。
頭を撫でようとしただけだぞ。
俺は仁人の顔を覗き込んだ。
「今日ちょっと変じゃない?」
「気のせい。」
「そう?」
「そう。」
言い切られた。
じゃあ、そうなのか。
……いや。
やっぱり変な気はするけど。
まあいいか。
「じゃあ。」
もう一度近づく。
「……なに。」
「充電。」
そのまま肩に頭を乗せた。
今日は疲れた。
少しくらい仁人にくっついていたい。
いつものことだ。
なのに。
「…………。」
硬い。
ものすごく硬い。
何でそんなに全身に力入ってんだ。
「……佐野さん?」
「ん?」
佐野さん?
二人きりなのに?
「ちょ、ちょっと。」
「何?」
「近い近い近い。」
「今さら?」
本当に今さらだ。
もっと近いことなんて、いくらでもしてる。
何を言ってるんだ、こいつ。
「今さら!?」
なぜか仁人の方が驚いている。
なんなんだ、 今日は。
顔を上げる。
目が合った。
さっきから妙に様子がおかしいし
機嫌でも直してもらおうかと、そのまま顔を近づける。
「――ひぃっ!!」
逃げた。
ものすごい勢いで。
ソファの端まで。
「…………。」
「…………。」
いや。
待て。
さすがにおかしい。
キスしようとして、仁人がこんな逃げ方するか?
しかも今。
ひぃって言った?
「…………。」
目の前にいる仁人を見る。
見た目は、どう見ても仁人だ。
当たり前だ。
でも。
何かがおかしい。
さっきまで感じていた小さな違和感が、一気に大きくなった。
「……仁人?」
自分でも分かるくらい、声が低くなった。
「な、なに。」
……誰だ。
その反応。
「お前。」
じっと顔を見る。
「今日、本当にどうした?」
目の前の仁人が、明らかに焦っている。
やっぱり何かある。
すると。
「……佐野さん。」
まただ。
「だから何。」
「今……何しようとしたん?」
「は?」
何って。
そんなの決まってる。
「キスだけど。」
「…………。」
「…………。」
固まった。
完全に。
俺まで意味が分からなくなってくる。
「何、その反応。」
すると。
目の前の仁人が、恐る恐る口を開いた。
「……佐野さん。」
「うん。」
「仁人と……キスするん?」
「…………。」
待て。
仁人?
今。
こいつ。
自分のことを、仁人って言った?
「…………。」
目の前の仁人も固まっている。
俺も固まる。
そして。
ようやく。
頭の中で、一つの答えに辿り着いた。
「…………誰?」
聞いた瞬間。
目の前の“仁人”が、引きつった笑顔を浮かべた。
「…………だいちゃんです。」
「は?」
「中身、塩﨑大智です。」
「…………。」
「…………。」
一瞬。
何を言われたのか理解できなかった。
中身。
大智。
じゃあ。
今、俺が頭を撫でようとしたのも。
肩に寄りかかったのも。
キスしようとしたのも。
全部。
「…………。」
ダイチ?
血の気が引いた。
「えっ。」
目の前の大智は、逆に目を輝かせ始めた。
嫌な予感しかしない。
「待て。」
「えっ、ちょっと待って。」
「大智。」
やめろ。
その顔で何も言うな。
というか、今気づくな。
「佐野さんと仁人って――」
「待てって。」
「付き合ってんの!?」
楽屋中に響いた。
終わった。
そう思った直後。
廊下から、ものすごい勢いで足音が近づいてくる。
バンッ。
「おい!!」
入ってきたのは。
大智だった。
いや。
違う。
今の話が本当なら。
あれは――仁人。
「今、俺の声で何叫んだ!?」
「じんちゃん!!」
目の前のダイチが叫ぶ。
「だからその顔でじんちゃんって呼ぶな!気持ち悪い!」
……ややこしい。
でも。
そんなことより。
大智が、仁人を見る。
「お前、佐野さんと付き合ってんの!?」
仁人が固まった。
「…………。」
俺は天井を仰いだ。
終わった。
完全に終わった。
視線を戻すと、仁人がゆっくり俺を見た。
「……お前。」
嫌な予感。
「俺じゃない。」
「お前だろ。」
「俺は被害者。」
これは本当にそうだと思う。
「何した。」
「何もしてない。」
「嘘つけ。」
「キスしようとしただけ。」
「してんじゃねぇか!!」
怒鳴られた。
いや。
待ってほしい。
俺は何も悪くない。
仁人だと思った。
恋人だと思った。
だから、いつも通りくっついて。
いつも通りキスしようとした。
そしたら中身が大智だった。
そのうえ。
隠していた交際までバレた。
俺は、大智の顔をした仁人と。
仁人の顔をした大智を交互に見る。
……。
いや。
どう考えても。
今日一番の被害者。
俺じゃね?
コメント
1件
わあ、第2話でいきなり入れ替わり!? しかも勇斗が仁人だと思って甘えてキスしようとしたら中身が大智だったって…もう読んでるこっちまで顔が熱くなったよ😳💦 最後に「俺が被害者」って言い張る勇斗、カッコいいのにちょっと可愛いし、大智の「じんちゃん!!」呼びがツボすぎて笑った😂 続きが気になる…!
#ざつだぁぁぁぁあん!!
パグモチ
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七星そら
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