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ミケイラ
#ギャグ・コメディ
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ハルディンの広場の片隅に俺たちは座っていた。俺は真っ黒な空を見上げる。
(なんとかしなければ……)
俺は必死に考えるが、なかなかいい案が思い浮かばない。
すると、サフランが突然叫び、力なく倒れ込む。
「もう無理! お腹も空いたし、力もはいらない……」
「僕も二日ご飯食べてないから死んじゃう……」
ぐぅぅ、とお腹が鳴る音がする。
俺だって同じだ。でも、彼女たちの前で弱音を吐くわけにいかない。
「……僕の夢は大魔法使いになることだったんだ」
ティアレが弱々しく口を開く。
「家族が皆、優秀な騎士になる中、僕だけが魔法使いの適正で。女の子だから誰かのお嫁さんになりなさいなんて言われてきたけど、そんな生き方は嫌だったんだ……」
その目には、涙が浮かんでいた。
「だから、大魔法使いになって魔王を倒す。そうすれば皆、僕のことを見直してくれる!」
サフランは黙ったまま聞いていた。
「なのに……このままじゃ……」
ティアレは俯いたまま黙ってしまった。しばらくの沈黙の後、サフランが静かに口を開いた。
「私も魔王の瘴気にやられて剣士の道を諦めていたけど、そんなところにユウトが現れて助けてくれたの。魔王を倒せば、きっと私みたいに困ってる人を助けることができる……」
ティアレは涙で真っ赤になった顔をあげて、サフランを見つめた。
「私たち、同じ目的だったんだね。魔王を倒す、ユウトと一緒に……!」
俺は黙って聞いていた。
(魔王……俺はこの街で便利屋でも開いて、ゆっくり生きたいだけなんだが)
サフランとティアレが話しているのを見ていると、まるで妹を見ているようで心が温まる。思わず口元が緩んだ。
しかし、彼女たちの声色が突然変わった。
「なのに百万Gなんて……絶対無理だよ」
「憲兵に捕まったらどうなっちゃうの……?」
「奴隷市場へ引き渡されて……」
どんどん暗い声色に変わっていく。
「鎖に繋がれて……変なおじさんに買われて……」
「あんなことや、こんなことを……」
(いやいや、なんてこと考えてるんすか!)
俺は大きくため息をついた。とにかくこのままじゃダメだ。
二人を広場に置いて、俺は立ち上がった。考えるより先に足が動いていた。
――
しばらくして二人の元に戻る。
「ユウト、どこに行ってたの?」
「これを買ってきたっすよ」
俺が買ってきたのは、売り物にならないような萎びて変色した野菜だ。
廃棄寸前の野菜を、ほとんどタダ同然で手に入れてきた。
「魔王を倒すにしろ奴隷になるにしろ、死んだらどうにもならないっすよ」
サフランは野菜を見て、ゾッとした顔をした。
「でも、こんな野菜じゃ食べられないよ……」
「ふふふ、そこで俺の出番っすよ」
――家事スキル:野外料理
俺が念じると光と共に雪平鍋が出てくる。相変わらず異世界にそぐわないスキルだ。
「ティアレ、水魔法は使えますか?」
「う、うん!」
ティアレが杖を構える。
「弱ーめにやってくださいね?」
俺が声をかけると、彼女は杖を握りしめ力を注ぐ。
すると、水道の蛇口を捻るように水が出てきた。その水を鍋に入れる。
「よし、次は火魔法っすね」
「む、無理だよ! また黒焦げになっちゃう」
ティアレがさっきのトラウマで涙目になって、後退りをする。
俺は呆れながら、落ち着いた声で指示をする。
「大丈夫っす。魔力を極限まで絞って……そう、そのくらい」
「う……このくらい?」
「完璧っす。そのままこの鍋の底をじわじわ温めてください」
ティアレの火魔法で、鍋の水が徐々に温まっていく。
(少し熱いくらいでいい。五十度前後か)
指先で温度を確かめると俺は、ストップと声をかけ、その中に萎びた野菜を入れた。
「えっ!? ちょっと、何してるの? もっとふにゃふにゃのゴミになっちゃうんじゃないの?」
サフランが慌てて止めようとするが、俺は気に留めなかった。
「料理の基本は下処理。五十度洗いをすることでシャキッとした食感が戻るし、アクを取り除いて旨みを引き出すっす。」
「へ……アク?」
「悪……魔王の瘴気かも……」
「よし、これで素材はオッケーっすね」
俺は包丁をスキルで取り出し、傷みが激しい部分を削ぎ落としていった。
野菜を刻んでいき、再び水と一緒に鍋に入れ、ティアレの火魔法で煮込んでいく。味付けはさっき調達した塩だけ。
だが、不純物がなくなった野菜は火を通すことで素材本来の甘みと旨味が溶け出し、スープと絡み合う。
「できあがりっす」
俺は、小さなカップにスープと野菜をよそって、二人に手渡した。
「熱いから気をつけてくださいね」
「い、いただきます……っ!」
ティアレは目の色を変えてスープを口に含む。
「……!?」
その瞬間、彼女の時が止まった。
「甘いっ……あんなに萎れてた野菜だったのに……なんでこんなに美味しいの……!?」
彼女は夢中でスープを飲み、野菜を口にする。シャキシャキと心地よい音が聞こえてくる。
どれだけ空腹でいたんだろうか。一気に食べてしまった。
「……ぁ、れ……?」
ティアレの顔が急激に赤く染まっていった。
「あぁっ……あ、あっ、あぁぁぁっ♡」
彼女の体が全身光に包まれていく。まるで魔力回路が全回復していくように、キラキラと輝いた。
すると、ガクンとその場にへたり込み、内股になりモジモジする。
「待って、なにこれ……♡体の中が熱くて……っ、魔力が溢れてくるぅぅっ……♡」
(またっすか……)
ティアレは焦点の定まらないトロトロの瞳になり、その場で倒れ込んだ。急いで俺は体を支えた。小さくて柔らかい体だった。……いや、今はそれどころじゃない。
「まったく、大丈夫っすか」
「これ……しゅごい……僕もう、ユウトがいないと生きていけない体になっちゃう……♡」
すると、隣から冷たい視線が突き刺さる。サフランだ。彼女の瞳には嫉妬の色が浮かんでいた。
「ティアレだけずるい! 私も!」
サフランは急いで渡されたカップのスープを口にする。
「あっ、あっ……これ、すごい♡」
二人を包み込む光が当たりを明るく照らす。
(まったく。屋外でこんな声出したら、近所迷惑っすね)
俺は、熱い吐息を漏らしながらへたり込んだ二人を見ながら、静かにスープを口にした。
「うん、うまいっすね」
(でも……俺にはなんともないんだな)
すると、そこに豪華な服を着た老紳士と騎士が通りかかった。
「……その光、そしてこの香り。只事ではない」
(やべ、広場でこんなことして、今度は公衆猥褻罪で捕まるか……!?)
ビクビクする俺の前に二人は立ちはだかると静かに口を開いた。
「そのスープ、私にも一口いただけないだろうか」
「えっ、別にいいっすけど」
思わず拍子抜けしたが、スープをカップによそって手渡す。騎士が先にスープを口にした。
その瞬間、体が光り出す。
「な、なんなんだこれは……!?」
目は見開き、足がガクガクと震えている。
「体の瘴気が浄化され、力がみなぎってくる……!」
「なんなのだ、これは……!?」
老紳士も驚いたように俺の方を見る。
「材料はその萎れた野菜と塩だけ……? まさかこれほどの味を引き出すとは……」
「間違いない……エルム様、このお方を料理対決へご招待を……!」
「うむ。そうだな、アルダー」
「え……?」
老紳士は改まって、挨拶をしてきた。俺も背筋をピンと伸ばす。
「ご挨拶が遅れましたな。私はエルムと申す者。明日行われる料理対決に参加する予定でしてね」
「料理対決?」
「ええ。ですが困ったことに、我が陣営の料理人が怪我をしてしまい、出場できなくなってしまったのです。そこで急ぎ代わりを探しておりまして……どうでしょう。どうか貴方方に、代役をお願いできないでしょうか」
「……!?」
思わず驚いたが、正直目立つことはしたくない。拳をぐっと握りしめた。
「すみません。俺たち用事があって忙しいっす」
その様子に、老紳士は真剣な顔で応える。
「優勝賞金は三百万Gとなります。もし我々にお力添えいただけるのであれば、その半分を報酬としてお約束しましょう」
「半分!?」
頭の中で計算する。百五十万G。借金を返してもお釣りが来る。
(こんなチャンスは二度とない……!)
俺は拳をぐっと握り直した。こんなチャンス逃してはいけない。ごくりと唾を飲み込む。
「……謹んで、お引き受けします」
俺は深くお辞儀をした。
すると、背後で聞いていたティアレが震えだした。
「ユウトの……もっと美味しい料理が食べられる……?」
彼女は顔を赤らめ、よからぬ妄想をしているようだ。
「負ければ、僕は奴隷市場であんなことやこんなことを……勝てば美味しい料理でいっぱい気持ちよくなって……」
失うのは自由か。
それとも理性か。
期待と恐怖に、彼女は足をぎゅっと閉じて震えた。
「……僕、どっちにしても壊されちゃう……!?」
(いやいや、ただの料理対決だからな!?)
俺は顔を真っ赤にして震えるティアレを見て、本日何度目かわからない深いため息をついた。