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(──常春《つねはる》、殿?!殿、とは、何事!常春様、だろう。つ ね は る さまっ!)
上野は、心の中で、叫んでいた。やっぱり、こやつは、いけすかない。容姿が良いと、皆、言うが、晴康《はるやす》の方が、よっぽど、勝《まさ》っている。などは、どうでも良い事と、上野は、歯噛みしながら、自分の役目に集中した。
一方、琵琶法師は、宙を望み、自身にかけられた声の主を探ろうとしている。
「ああ、申し訳御座りませぬ。常春様は、守満《もりみつ》様のお出迎えに……。故に、今日は、変わりと言うことで。何せ、屋敷は、人手不足でしてなぁ。なんやかやと、かけ持つ訳でして、ハハハハ」
「ほお、大納言様の御屋敷でありながら、人手不足とは。可笑しな話でございますな」
「まこと、そうでございます。ハハハハ」
(調子に乗るな!この、琵琶法師め!)
上野は、晴康に言われた通り対応していた。
間抜けな案内人を貫けと言われて、上野なりに、工夫してみたが、何様のつもりか!と、言いたくなる琵琶法師の態度に、我慢も限界を迎えようとしていた。
と──。
「お、おおおっ!うわっあっ!」
上野が声を挙げた。いきなり、晴康に、背を押されたのだ。
このままでは、転んでしまう。
「おっとっとと!」
なんとか、態勢を整えようと踏ん張るが、その時、プチンと、下履《わらじ》きの鼻緒が、切れてしまった。
上野は、そのまま、倒れこんでしまう。