コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「う、うわっっ!!こ、これは!すまぬ事を!いやっ!申し訳ござらんっ!!」
上野が、倒れこんだ先には、琵琶法師が立っていた。そして、見事に、押し倒してしまったのだった。
共に、地面へ横倒しになった琵琶法師は、
「どけっ!女!貴様!女房の格好にて、男言葉などを使いおってっ!ええぃ、気持ちの悪い!早よう、どかぬかっ!」
と、言い放ち、上野の体を力任せに、押し退けると、すくっと立ち上がって、琵琶の様子を気にかけた。
「いったあぁー!!」
弾かれた上野は、再び、地面に転がりこんでしまう。
「あれあれまあまあ。とんだことになりましたなぁ。琵琶の方は、大丈夫でござりましょうや?盲《めしいい》のお身では、ご覧に慣れないだけに、心配でございましょう」
隠れていた晴康《はるやす》が現れ、にこやかに、語りかけた。
「あーー!琵琶法師!!何故、一人で動けるのです!しかも、琵琶まで、手にとって!!」
「そういえば、何やら、女房の格好にて、男言葉を、とか、申してましたが?女房が出迎えているとは、誰も言っておりませんのにねぇ」
ふふっと、晴康は忍び笑った。
たちまちに、琵琶法師の顔色は変わり、くっと、忌々しげに喉を鳴らすと、駆け出した。
「常春《つねはる》!」
叫ぶ晴康に応じる様に、常春が現れ、西門の扉を閉じた。
「ええーー!兄様っ!!なんでっ?!」
上野が驚くのも、無理はない。門を閉じた常春は、一気に増えて、琵琶法師の行く手を阻止し始めたのだ。
追う常春、立ちはだかる常春、袖を掴む常春、しかし、襲いかかる全ての常春を、琵琶法師は、見事に交わして駆け抜ける。
そして、ついに、築地塀に阻まれた。