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水属性の魔法を……と彼が言ったのは、ブライトの得意属性でもあり、以前私が滝を出現させたと耳にしたからだろう。確かに、水ならイメージしやすいかも。と私も思いブライトの指示に従った。


「水属性の魔法は、イメージが不確定でもかなりの確率で発動できます。ただ他の属性と比べ攻撃力と正確性に欠けますね……なので」


と、ブライトは言うと水属性の魔法を発動させうねり形を変える水を、弓の形にし私に見せた。

確かに、水の弓は同じ形を維持する……というよりかうねうねとうねる水が、その場で留まり形をつくっている感じだった。


「凄い……! 弓になった!」

「上位魔法になると、これが氷になりしっかりと形を維持できるようになります。ただ、イメージと魔力が必要となってくるんですよね」

「へぇ」


そういうとブライトは木にめがけ矢を放った。

すると、その水は放たれた瞬間目にもとまらぬ早さで飛んでいき、木に刺さった後破裂した。まるで、水が散弾銃のように四方八方に飛んでいき、飛沫となって消えた。

私は、その光景を見て目を見開いた。

殺傷能力はないように思えたが、あのスピードで当たったらかなり痛いだろうなあと思いつつブライトを見た。彼では、にこりと微笑むと、ではやってみましょうか。と、私を促した。

私は、こくりと喉を鳴らすと先ほどブライトがやったように手を前に出し、魔力を練るイメージをした。

すると目の前に小さな水の球体が出現したが、球体を維持するのは意外にも難しく弓の形にすることは困難を極めた。


「い、以外と難しい……気を抜いたら弾けそう」


と、呟くとブライトが隣でアドバイスしてくれた。

彼は、私の手元を見ながら優しく説明してくれる。

彼の横顔を見ると、やっぱり綺麗だなあとか思ってしまって。こんな素敵な人に手取足取り教えて貰えるなんて何て贅沢なんだろうと思いながら、私は目の前の球体に集中した。

水を形として保つのは難しいとブライトは言い、水の流れを水が循環するのをイメージすればいいと教えてくれた。

私はその通り保つではなく、循環するイメージで魔力を注ぐ。すると、少しずつだが形が整ってきた。

そうして、時間はかかったが何とか弓の形にまで持ってくることが出来た。達成感が凄く、目の前に形成された水の弓を見て自分がやったと信じられず目を見開く。


「エトワール様その調子です」

「は、はい!」


ブライトに褒められ、照れくさくなり私はスッと的である木の方に視線を逸らした。

あの木に向かって今度は弓矢を放つのだ。

矢は意外にも簡単に形成され、私は標準をあわせる。しかし、弓など打ったことはなく、どう構えればいいのか分からず、矢を番えたまま固まってしまった。

それを察してくれたのか、ブライトが後ろから私を抱き込むようにして支えてくれる。

耳元に、吐息がかかりビクッと肩を揺らすと、大丈夫ですよ。


(ひぃいいいんッ!? 近い! 近すぎる! 耳に息かかってる! 何かいいにおいするし! 無理無理無理!)




と、内心パニックになっていると自分のタイミングでうってください。とブライトの声が耳元で聞こえた。

彼の手が私の手に重なり、私は思わずドキッとした。そして、ブライトの指先が私に触れていると思うだけで胸の鼓動が早くなる。

いや、心臓がばっくばく鳴って飛び出しそう……!

標準がずれないようにブライトが固定してくれているのだが、頭は沸騰し初め水の弓矢もふつふつと熱を帯び同じく沸騰し始める。


(ダメダメダメ……! キャパオーバー……ッ!)


ブライトの方は何とも思っていないのか、それがさも当たり前であるかのように私を抱き込んで手を……

そう、乙女ゲームである。乙女ゲームであるからして、こういうシチュエーションがあることぐらい頭では分かっている。だが、実際こんな心臓に悪いものだったなんて。

と、ぐるぐると妙に冴えた思考がまわりにまわってショートしかけたので、もういっそ早く矢を放ってしまおうと私は熱くなった手で弓矢を射る。


ヒュンッ―――――!


と、矢は一直線に大木めがけて飛んでいく。

しかし、沸騰した水はだんだんと形を変えオレンジ、赤……と代り木に刺さる頃には炎の矢となっていた。


「……え、え」


私は唖然とし、目の前の木に刺さった炎の矢を見た。

確か私は、水の矢を……

そう思いブライトを見ると彼は、酷く怯えたような表情でその矢を見つめていた。

私が困惑していると、ブライトは私の視線に気づいたのか笑顔でさすがです。と手を叩いた。しかし、その笑顔は無理しているようにも見えて心配になった。


「まさか、水の矢を途中で炎の矢に変えるとは……さすがです。エトワール様」

「あ、はい……ありがとうございます」


取り敢えずお礼を言うと、ブライトの目が細められた。

地雷を踏んでしまったら申し訳ないのだが、気になってしまったため私はブライトに尋ねた。


「もしかして、火……苦手なんですか?」


そう聞くと、ブライトは一瞬驚いたような表情をしてから真顔になった。その様子に、やっぱり聞かない方が良かったかと思ったが、ブライトはすぐに笑みを浮かべる。

やはり作り笑いだ。

私はそんなブライトを直視できず、少し目をそらす。

気まずい空気が流れ、どうしようと思っていると、ブライトが口を開いた。

それは先ほどまでの作られた声ではなく、いつも通りの落ち着いた声で私に話しかけてくる。


「エトワール様の仰るとおりです。実は、数年前に家事で母親を亡くしまして……」


ブライトの言葉に、私は言葉を失った。彼の家庭環境について何も知らなかったのだ。

ゲームでは語られていない、攻略キャラの生い立ちを今初めて知った気がした。

彼が、この世界で生きてきた証なのだと、改めて実感する。

それにしても…… 私はチラッとブライトを見る。ブライトはいずれ、この帝国一の魔道騎士団の統率者になる人……きっと期待やプレッシャーは計り知れないだろう。


「すみません。不謹慎な質問をしてしまって……」

「いえ、大丈夫ですよ」


私は俯きながら、謝るとブライトは苦笑いしながら言った。


「もし、エトワール様さえよければ……僕の昔話でも聞いて貰えませんか?」


ブライトはそう言って、悲しげに微笑んだ。

ブライトの過去を知りたい。そう思った私は、小さく首を縦に振った。すると、ブライト優しく微笑んで噴水の縁に腰掛けた。



乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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