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「あれは、十二年前のことでした……弟が生れた日、別荘で火災が発生し母親は亡くなりました」
ぽつり、ぽつりとブライトが話し始めた。
母親が亡くなったとき、彼は当時十二歳だったそうだ。小さい頃から魔法を学び、当時は五種属性全てを扱えた。
ブライトの父親は、魔道騎士団の統率者で忙しい人だった。しかし、その時一日だけ出来た休暇を家族と過ごしたいと、別荘に招いたそうだ。だが、魔物の襲撃に遭い母親が死んだ後別荘に到着した。運悪く。
母親はこの時、子供を身ごもっており予定日はまだ先だった。だが、体調が急変し急遽別荘で出産することとなったらしい。
そのため、出産には立ち会えなかったという。というのものその日彼は別荘から離れた森の中で魔法の練習をしていたそうだ。そして、魔法の練習をしていると別荘から焦げ臭い匂いがしてき、炎が上がっていることに気づき急いで別荘へと戻った。
そこで見たのは…… 屋敷が燃え、その中から聞こえる悲鳴、絶叫―――――
燃えさかる炎を見てブライトはただ呆然と立ち尽くした。自分が出せる最大火力の火属性魔法よりもはるかに高温の炎が別荘を覆い尽くすように広がっていたからだ。
何も出来ず、ただただ燃え上がる炎を見ていると、別荘のとある窓ガラスが割れ、メイドが目の前に落下した。彼女は、既に意識を失っておりピクリとも動かない。この別荘の主の妻を見捨てて、自分だけ助かろうとしたのかとブライトはそのメイドに駆け寄った。しかし、どうやらそうじゃなく、その腕の中には小さな赤子が抱かれていた。
その子は、泣き叫ぶわけでもなく死んだように目を開いたままじっとしていた。
ブライトは直感的に、この赤子が自分の弟なのだと悟った。
メイドは、この子を逃がすために二階から飛び降りたのだ。
ブライトは、すぐに弟を抱きかかえ、屋敷に向かって叫んだ。しかし、母親の声も他の使用人達の声も帰ってくることはなかった―――――……
「あの日のことがトラウマになって、火がダメなんです。帝国一の魔力量を持つ家の生まれなのに、五種属性全てが使えない魔道士。それが僕です」
ブライトの告白に、私は息を呑む。
何故、火災が起こったのかなど未だ不明だそうでブライトは母親の死の真相を追っているらしい。ブライトにとって、魔法以外のことを教えてくれた優しい母親はとても大切で守りたかっ
た存在だったのだろう。
そんな母親を亡くしたショックと、父親の期待に応えられない悔しさからブライトは肩身の狭い思いをしてきたのだろう。いずれ、自分が父親が統率する魔道騎士団を継ぐのだから。
(兄妹はいないし、両親が亡くなったわけじゃないけど……私もおばあちゃんが火災で……)
私の祖母は、私が小学三年生の時に亡くなった。お葬式にも出たし、唯一優しく接してくれて、私を肯定してくれる人だったから亡くなったときはショックだった。
「……だから、弟さんが大切なんですね」
私は、ブライトの話を聞いて呟く。
母親が残した家族だから。ブライトもそう思っているだろうと、ふと見上げるとブライトの顔は何故か険しく、
苦しそうな表情を浮かべていた。私は不思議に思い、声を掛けようとするとブライトは口を開いた。
「僕は……」
そこまで言うと口を閉ざした。
「……? どうしたの?」
私は、ブライトの様子がおかしいことに気づき問い掛けると、ブライトは首を横に振って「何でもありません」と言った。
「それよりも、エトワール様。そろそろ戻りましょうか」
「え……?」
「今日はもう遅いですし、明日からまた頑張りましょう」
「えぇ……」
私は、何か違和感を感じつつも、その言葉に素直に従うことにした。
遅い、といわれてもまだ早朝だし……確かに、グランツとの約束がある為ここに長居は出来ないだろうけど。そういうことを配慮した、というよりかはブライトは何かを隠すように逃げるように私から離れていく。
それは、私を避けているという風ではなく、私以外の何かに怯えているような感じがした。
(何か……心配……)
人には他人に話したくないことがあるように、彼もまたその話したくないことがあるのだろう。攻略キャラ、ゲームの世界とはいえ、今ここは私にとって現実なのだ。
だから、彼らは都合のいい登場人物ではない。
人間くさく、人間らしい。
なんだか、想像していたものとはかけ離れているのだが、確かにここにはリアリティがある。
私は、ブライトの背中を眺めながらそう思った。
彼の頭上の好感度は15になっていたが、私はそれを気にすることはなかった。
――――――――――
――――――――――――――――
「今日は本当にありがとうございました。今後ともどうかよろしくお願いします!」
「こちらこそ……エトワール様の力になれたかは分かりませんが」
と、ブライトは自分を卑下し私とは別方向を見た。
そんなブライトに私は、深々と頭を下げる。すると、彼は苦笑しながら答えてくれた。
しかし、彼はその後、何かを言い淀んだ。
私には、その理由が分からず、彼に問う。
しかし、やはり彼からは返事がない。まあ、言いたくないならいいけど……けど―――――
(そんな顔されたら、心配になるのよ……)
人形のような整った芸術品のような美しい顔、それが歪み、眉はハの字に曲がりアメジストの瞳は潤んでいた。
ゲームでは見せなかったブライトの不安そうな表情。
聖女に向ける心配そうな過保護気味な顔ではなく、きっと自分の中にある何かに対して現われた表情なのだろうと私は悟った。そして、私はそんな彼の手を取ると、ブライトは目を見開き驚いた様子を見せた。
私は、そんな彼に向かって微笑む。
好感度を上げたいからじゃない。ただ、そんな不安そうな顔して欲しくないからだ。
「ブライト、私のこと頼って」
「え、えっと……エトワール様……?」
私は、ブライトの手を握る力を強める。
ブライトは、困惑しているようで、目を丸くさせ、口をパクパクさせている。
しかし、私はそんなブライトを無視して、言葉を紡ぐ。
「私のこと、信じて欲しいし頼って欲しい……えっと、ブライトが私に魔法を教えてくれるように、私に出来ることがあれば何でも言って! ってこと」
そう言うと、私は手を離す。
自分でも何でこんなことを言ったのか分からない。だけど、私はブライトに笑っていてほしかったのだ。
だから、私なりに考えて行動した結果がこれだ。
私は、恥ずかしくなって俯きそうになるが、ブライトの顔を見て固まる。
ブライトは、頬を赤らめ、嬉しそうに口元を緩ませていた。
まるで、花が咲いたかのような笑顔で。
(あぁ……やっぱりイケメンはズルい……)
私は、その笑顔を直視出来ず、視線を逸らす。すると、ブライトは咳払いをして私に話しかけてきた。
先程の表情は何処へやら、いつも通りの表情に戻っており、私は内心ほっとする。
「ありがとうございます。エトワール様」
「い、いや……その、私たいしたこといってな……」
「僕にとっては凄く価値のある言葉でしたよ。頼って……と、そう言われたのは初めてです」
そう言うと、ブライトは優しく笑う。
それは、とても綺麗な笑みだった。今まで見たどの笑顔よりも美しかった。
(もう……反則だよ……そんなの……う~~~~~~ん)
私が顔を赤くさせると、ブライトは不思議そうな顔で首を傾げる。そして、彼の好感度はピコンと機械音を立てて18へと上昇する。
そんな彼の好感度の上昇に気づき私はポカンと口を開けていると、ブライトは「では、また」と一礼し神殿を後にした。
彼との魔法の特訓で忘れていたが、次はグランツとの剣の訓練である。
「よし、頑張るぞ!」
と、私は自分に喝を入れるとグランツの元へと向かった。