テラーノベル
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翌朝、柔らかな朝日が窓から差し込み、 私の顔を優しく照らした。
私はゆっくりと目を開け、天井を見つめた。
すぐに、身体に変化が起きている事が分かった。
「あれ?あんなに飲んだのに……身体が軽い……?
そう言えば寝てる間に……
“進化”とか言われた気が……?」
進化という言葉に、
既に起きていたエスト様と辰美が驚きの声を上げた。
「え!進化!?お姉ちゃん凄い凄い!」
エスト様の目は星型になり、
興奮で体が小刻みに震えている。
「進化って!めっちゃレアですよ!サクラさん!
おめでとうございます!結婚してください!
きゃ……言っちゃった……」
辰美は顔を真っ赤にしながら、両手で頬を覆った。
「……へぇ……そうなんだ……」
私は辰美を無視。
上の空で返事をすると、ゆっくりと立ち上がり、
部屋の隅にある全身鏡の前に立った。
正直なところ、私は強くなることにまったく興味がない。
それは単純に、強くなればなるほど、
前線で戦わなければならなくなるからだ。
危険で痛い思いをするのは御免だし、
何より面倒くさい。
しかし、エスト様との世界征服という目標は達成したい。
だからこそ、私以外の誰かが頑張ってくれれば良いと
常々思っているのだ。辰夫とか辰美とか。
「んー……?」
鏡に映った自分を確認したが、
外見上の大きな変化は見られなかった。
しかし、よく見ると筋肉が引き締まっているような気がした。
体全体がより引き締まり、
姿勢も自然と良くなっているように感じる。
そして!私はある事に気付いた!
「ぇ……きゃあああッ!?」
私が驚きの声をあげると、
エスト様と辰美がビックリしながらこっちを見た。
「えッ?な!なに?」
「ど!どうしました?」
私は溢れる涙を堪え、震える声で2人に言った。
「胸が……胸筋が、引き締まって……減ってない?」
──沈黙。
「減るも何も!元からあるか分かんねーから!?」
エスト様が私の肩を叩く。
「サクラさんは私と同じぺったんですし!」
辰美がピースサインを作る。
──沈黙。
私は……ただ……ただ少しだけ……
笑ってほしかっただけなのに。
……二人は……笑って、くれないんだね。
「……よし」
私はおばあちゃんの言葉を思い出した。
『“怒ってる?“って聞かれた時はね、
“怒る権利を持ってると思ってる?“って聞き返したの。
今でもそれがおじいちゃんの人生の分岐点だったと思うわ』
── 私はコイツらを埋める決意をした。
しかし、その前に自分の身体の変化が気になった。
「それにしても身体が絶好調すぎる……
なんかスキル覚えたのかな?」
私は呟いた。
「……とりあえずステータスを確認してみるか……」
「ぁ!ステータスーッ!オープンッヌ!」(*結果発表の発音)
目の前にステータスウインドウが表示された。
\\ ぺったんこぉーーーーーッ ♪//
====================
★勇者・サクラの現在のステータス
・名前:サクラ
・種族:鬼族:酒呑童子 ← ☆New
・レベル:300
====================
「……」
私はマジマジとステータスを見る。
「おお?鬼族の【酒呑童子】というものになってる!」
「……酒呑童子って……前世の記憶では確か……
ヤマタノオロチの子で、鬼の中でも最強説があったはず!」
《天の声補足:諸説あります。
あとイケメンだった説もあります。
なお、サクラは酒クズ方面に特化してみました》
強くなる事に興味が無いとは言え、
流石にこれにはテンションが上がった!
「「おおッ!?最強の鬼ッ!?」」
2人は興味津々だ。
これからこの最強の鬼に埋められるのに。
「……んで……その酒呑童子さんの……
効果はどこかな……っと……?」
私はステータスウインドウを下にスクロールすると、
エクストラスキル欄に追加されているスキルを見つけた。
「お!あった!……え?これだけ……?」
\\ 【酒豪】ドーーーーーン!! //
《効果:肝臓強化。二日酔いになりにくくなる。肝臓大事。》
──沈黙。
──さらに沈黙。
部屋にハエが一匹「ブーン」と飛ぶ音だけ響く。
「……………………」
ハエが私のツノにとまる。
「──おいこらシステム!!!」
「「あははははははは!!」」
エスト様と辰美が爆笑した。
──硬直。
(……え、これ肝臓だけ進化?
敵は殴れないけどウコンは倒せるってこと?)
私の表情が徐々に曇っていく。
「……なにこれ……ねぇ?……
今、私の身に何が起きてるの?」
「よ、良かったね!あははははは!!
いっぱいお酒飲めるねっあははははは!!」
エスト様は大笑いしながら、床を転げ回り始めた。
「ちょっとあはは!!
な、なんで毎回笑わせるんですかははは!!」
辰美も腹を抱えて笑い出した。
「ほぅ……」
私の目が鋭く光る。
ドンッ!!!!!
「カンゾウッ!」
ドンッ!!!!!
「ダイジッ!」
2人は私のドラゴン・スクリューを受け、
回転しながら窓の外に放り出された。
窓の外では2人が頭から地面に刺さっていた。
それは、さながら墓標のようであった──。
「ホント!なんなんだよ!どうなってんだよ!
この世界のシステムは!」
私は窓の外の2つの墓標を見つめ、
手の汚れをパンパンと払いながら
天の声の中の人の墓標も用意する決意をした。
*
「サクラ殿!?凄い音がしましたが!」
辰夫が慌てて部屋に入ってきた。
「……ふん。なんでもないわよ」
私は窓の外の2つの墓標を見つめながら言う。
「……そうですか……では」
「あー、辰夫」
私は部屋から出て行こうとする辰夫を呼び止めた。
「は、はい……?」
「……領主戦の時は……サポート……ありがとうね。
助かったわ。また宜しく」
私は窓の外の墓標から雲に視線を移しながら言った。
「……え……?……あ!は……は、はいッ!!!」
辰夫の声が弾んだ。
普段の落ち着いた口調とは打って変わって、
興奮と喜びが溢れている。
「い、いえ!お役に立てて光栄です!」
辰夫の声には深い感謝と尊敬の念が込められていた。
彼の目には涙が光っているように見えた。
私は軽く頷き、辰夫に背を向けたまま、
「うん」と小さく返事をした。
部屋を出ていく辰夫の足音が、
いつもより軽やかに聞こえた。
「……調子乗るなよ、辰夫のくせに」
窓に映った自分の顔が、
少しだけ緩んでいるのを見て、舌打ちをした。
*
── そして、この時の私は忘れていた。
このステータスウインドウが
マルチタッチ対応デバイスである事を。
天の声の中の人の悪戯だろうか?
二本指でタップして確認できる詳細には
以下のような記載があった。
====================
エクストラスキル
酒豪 → 二日酔いになりにくくなる。肝臓大事。
(鬼剣舞 → 全ステータス2倍)
(鬼ころし → 鬼系モンスターへの攻撃力2倍)
(鬼山間 [赤ラベル] → 酔えば酔うほど強くなる)
====================
全部日本酒の名前かよ。
酔拳みたいなのあるし、どうなってんだよこの世界。
まぁ私がこれに気づくのは、だいぶ先のお話。
肝臓は大事ね……まぁそうなんだけどさ?
こいつらとバカやってる時間のが大事なんよ。
多分ね。
(つづく)
──【今週のおばあちゃん語録】──
『“怒ってる?“って聞かれた時はね、
“怒る権利を持ってると思ってる?“って聞き返したの。
今でもそれがおじいちゃんの人生の分岐点だったと思うわ』
解説:
この言葉を聞いたおじいちゃんは、
その日から味噌汁の味がしなくなったという。
なお、翌日から「はい」と
「申し訳ありません」だけで会話が成立するようになった。
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