テラーノベル
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朝。
俺は目覚ましが鳴るより先に目が覚めた。
時刻は6時58分。
いつもより少し早い。
俺は天井を見つめながら、ぼんやり考える。
昨日の夜。
帰りの電車。
スマホ。
神評価サイト。
そして――
物忘れの神。
そこまで思い出して、俺は起き上がった。
「……あれ?」
少し違和感があった。
昨日のことをやけに鮮明に覚えている。
細かい部分まで。
電車の車両。
乗客の顔。
広告の内容。
全部。
こんなことは珍しかった。
会社へ向かう電車。
隣に座ったサラリーマン二人が話している。
「最近さ」
「ん?」
「忘れ物しなくなったんだよな」
「あー、分かる」
「昨日も妻に言われたわ」
二人は笑った。
俺も特に気にしなかった。
その時は。
午前中の会議。
上司が資料をめくる。
「先月の数字だけど――」
俺は資料を見ながら違和感を覚えた。
内容を全部覚えている。
前に見た時のページ番号まで。
「どうした?」
上司に声をかけられる。
「いえ」
自分でも理由が分からない。
ただ妙だった。
昼休みには 社員食堂でいつも昼ごはんを食べる。
テレビではニュースが流れている。
『最近、記憶力の向上を感じるという声が全国で増加しています』
コメンテーターが笑う。
『良いことじゃないですか』
『受験生なんか大喜びですね』
周囲の社員も笑った。
誰も深刻に考えていない。
俺もそうだった。
その時までは。
会社帰り、電車を降りると昨日と同じように辺りがやみにつつまれていた。
重い足を運びながら家に入り、家事がひと段落したところ。
気になってスマホを開く。
神評価サイト。
ランキングを確認する。
ーーーーーーーーーーーーー
天候の神 ★4.9
健康の神 ★3.8
恋愛の神 ★4.5
夢の神 ★3.6
記憶の神 ★4.2
ーーーーーーーーーーーーー
指が止まる。
何度探しても見つからない。
物忘れの神。
存在しない。
検索する。
ヒットしない。
履歴も消えている。
昨日確かに見たはずなのに。
まるで最初から存在していなかったように。
背中が少し冷たくなる。
その時。
画面の下に見慣れない項目が現れた。
【削除済みページ】
昨日まではなかった。
恐る恐るタップする。
ページが開く。
真っ黒な画面。
中央に文字だけが浮かんでいた。
ーーーーーーーーーーーーー
「物忘れの神」
状態:消滅
最終評価:0.00
ーーーーーーーーーーーーー
俺は固まった。
意味が分からない。
さらに下へスクロールする。
ーーーーーーーーーーーーー
影響範囲
・記憶劣化機能 停止
・感情減衰機能 停止
・因縁希釈機能 停止
・社会的忘却機能 停止
ーーーーーーーーーーーーー
「……なんだよこれ」
冗談だろ。
意味不明な単語ばかり並んでいる。
しかしさらに下。
そこを見た瞬間。
血の気が引いた。
ーーーーーーーーーーーーー
予測被害
1日後 軽微
7日後 社会不安
30日後 国家機能障害
180日後 文明崩壊
ーーーーーーーーーーーーー
文明崩壊。
その四文字が目に焼き付く。
思わず笑いそうになる。
馬鹿げている。
ただのサイトだ。
ただの悪趣味なジョーク。
そう思いたい。
だが。
妙に現実味があった。
そんな違和感を抱きながら俺は布団へ潜った。
翌日。
違和感は増えていた。
会社の空気がおかしい。
同僚同士が口論している。
珍しいことではない。
だが内容がおかしかった。
「覚えてるからな」
男が怒鳴る。
「三年前だぞ?」
「だから何だよ」
「お前があの時言ったこと、一字一句覚えてる」
周囲が止めに入る。
しかし収まらない。
誰も譲らない。
いつも通りの帰り道。
ふと癖でスマホを開く。
SNSでは 似たような話題が溢れていた。
『昔のこと思い出して眠れない』
『十年前の失恋が急に苦しくなった』
『なんで忘れられないんだ』
『ずっと頭から離れない』
その瞬間。
神評価サイトから通知が届く。
見たことのない通知。
【新たな低評価集中を確認】
嫌な予感がした。
通知を開く。
ランキングが表示される。
そして一つのページが目に入った。
ーーーーーーーーーーーーー
「老化の神」
★0.7
レビュー欄。
★1
「老化とか必要?」
★1
「早く消えてほしい」
★1
「若いまま生きたい」
★1
「こんな神いらない」
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俺は無意識にスマホを握り締めた。
昨日までなら。
俺も同じことを思ったかもしれない。
だが今は違う。
物忘れの神が消えた。
そして世界は確実におかしくなり始めている。
もし。
もし本当に。
このサイトの評価で神が消えるなら。
老化が消えたら?
病気が消えたら?
死が消えたら?
その先にあるのは救いなのか。
それとも――。
画面の下に小さな文字が表示された。
【次の消滅候補を監視中】
俺は初めて理解した。
このサイトは遊びじゃない。
そして。
それを知っているのは、今のところ俺だけだった。
コメント
1件
わあ、第2話、すごく引き込まれました……! 物忘れの神が消えたことで、世界が少しずつ歪み始めている感じがゾッとしますね。特に「覚えてるからな」と怒鳴る同僚のシーン、忘れることができたからこそ成り立っていた人間関係の脆さが浮き彫りになっていて、心に刺さりました。そして最後の「老化の神」への低評価集中……この先どうなるのか、本当に気になります。続きが待ち遠しいです!