「……そこはリスみたいだねっとか可愛い小動物に例えるのがいいと思うんですよ!」
すぐに言いたかった事だけど、口の中がいっぱいで言えず移動したところでやっと言えた。これは無愛想なダリルさんが可愛くなればとの助言なのだ。決して願望などではない。
「とりあえずこれであそこの的に当ててみろ」
そう言ってダリルさんは何かの木で出来た短弓を手渡してきた。
ここは店を出て隣にある練習場。主に店の武器をお客さんが試してみる場所だってロズウェルさんに教えてもらった。
そしてダリルさんが示した先には10mほどのところに立てられた鉄製の盾があり、その表面は傷だらけで所々欠けていたりすることから的にするために置かれているものと分かる。
「よぉーっし。美少女エルフ、フィナちゃんの華麗な腕前を見せてあげようじゃないですかっ!」
そう高らかに宣言してわたしはぐっと力強く構えて見せた。
放たれた矢は、確かに前方には飛びはしたものの2mほどで右に大きく逸れて地面に突き立った。
そのそばで剣を素振りしていた髭が魅力的なダンディーおじさまが目を剥いて驚いている。
「ごごご、ごめんなさいいいっ!」
わたしはちゃんとごめんなさいが出来る子なのだ。
「まあ、怪我もさせてないし、気にしなくていいよ。ダリルのいるところで無体を働く人なんていないしね」
ロズウェルさんマジいいひと。
そのあとひたすらに20本ほど打たされて、その数だけごめんなさいして、手と腕と背中と脚が痛い。ていうか全身。
「体力がないのもそうだが、ロズウェル。これは……」
「ひどいですね。これほどとは……」
ロズウェルさんも苦笑い。わたしだけでもとりあえず笑顔でいよう。いや、ロズウェルさんも一応笑っていることになるのかな?
「けどほら、もしかしたら弓が悪い可能性も! その弓は売り物じゃなさそうだし、それにちょっと古そうで小さいし、ね?」
我ながら物のせいというのはどうかと思わなくもないけど、渡された弓は実際古い。わたしの孤児院時代のお小遣いで買った弓よりも心許ない。
「ロズウェル」
言われて、ロズウェルさんが同じ弓で的を射る。
美しいエルフの美しいシルエットは見惚れるほどで、ごく軽く放たれた矢は綺麗な軌道で的に当たり、カーンと音を立ててそこに落ちる。文句なくVTR判定などの余地なく命中である。
「お見事」
「わかってるもぉん! ホントはわたしが下手くそなんだって、いつもあんな感じで真っ直ぐ飛んでくれなくて。最初の頃なんて前向いてるのに後ろに跳ねていたんだからっ! これでもマシになったんだよおおおおお」
傍目にもわかる違いを目の当たりにして、つまらない言い訳したことが恥ずかしくって、つい声が大きくなる。
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