テラーノベル
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思い切って髪を切った。絵に描いたようなマッシュヘア。自分は鏡の前にいるのに、美容室の鏡に反射した私が別人に思えた。
(…あれ、あたしメロすぎない?…自分に恋しそう)
母親からは童顔と言われる。だけど、内カメだと顔が長く見えるから、内カメと外カメのギャップに悩んでた。それに、周りの友達は「The JK」って感じで容姿は整っていてキラキラした友達ばかりだった。だから、伊織自身、容姿には自信がなかった。けれど、「思い立ったら吉日」っていうマインドで生きてきた。だから、似合うか似合わないかなんて、一切眼中になく、「お腹すいた、コンビニ行こ。」みたいなノリで美容室に向かった。当然、予約は必要であったから、ちゃんと予約して行ったが、動機はそれに近かった。きっかけは、少女漫画。ただ、伊織の好みであり、完全なる主観ではあるが、ヒーローがヒロインに対して距離が近かったり、行動が予測できず掴みどころがなかったり。そんなところがいい。憧れができれば、その憧れの真似をしたくなるもの。多分。不安とは裏腹に、この童顔のおかげでこんなにも似合ったのかもしれない。それには、とても感謝してる。
人が入れ替わり、人が出会う。新学期。伊織には、そんなことより、マッシュヘアにした自分に酔っていた。
「橋井伊織です。よろしくね。」
名前だけ言って、それ以外は言及しない。これこそが伊織の憧れで、かっこいいと思っていた。伊織は自己紹介後、「言えた!」という自己満足の余韻に浸っていた。失礼かも知れないが、余韻が強く周りが見えていなかった。一方、クラスでは自己紹介が進んでいた。
「吉川柚希。」
この男子生徒は、整った容姿から、注目の的になったらしい。伊織は、知らないが。
荷物整理があった。
「橋井さん、これ運んでくれない?」
困っている人がいたら断れない。先生という目上の人であるということもあるが。
「わかりました、いいですよ。」
思った以上に重たかった。「まあ、何とかなるだろう。」と楽観的に考え、階段を上がる。しかし、伊織には致命的な弱点があった。それは、体力がないということ。中学時代は、伊織自身が怠惰なせいで部活には入部しなかった。
「やば、おっも!!」
すると、気さくな男子生徒が声をかけてきた。
「大丈夫ですか?伊織さん!持ちましょうか?」
名前を知っているのだから、きっとクラスメイトなのだろう。
(自分で引き受けたんだし、頼りたくはないかな…)
「いや、大丈夫です。…ありがとね!」
誰かに見られているような気がしたが、気にも留めなかった。なんとか無事に、指定された場所へ運べた。
そんな感じで、新学期が始まった。普段伊織は、憧れを意識して生活していた。声は低く抑えて、最低限の返事をする。
とある数学の時間。
「橋井、この2次関数の頂点は?」
「(2,3)です。」
ある日の休み時間。とある女子生徒が話かけてきた。
「伊織ちゃん、だよね?!」
「そうだよ?」
「ちょー似合ってる!!」
「え、まじ?!ありがとう!!」
素が出てしまうことも。
それから、数日が経った。カラーパレットのような屋台。笑顔な通行人。焼きそばの匂い。いつもはほのぼのしたこの通りが、いつもより賑わっていた。そう、今日は夏祭り。久々に中学時代の友達と夏祭りに行くことにした。せっかくこの髪型にしたのだから、わざわざ濃紺の浴衣を買い、それを着ていくことにした。
「え!伊織!久しぶり!髪切った?!めっちゃ似合ってる!」
中学時代の友達の「梨乃」。
「りの、お久ー!てか、あたしめっちゃメロくね?」
「めっちゃメロいよ!!」
「ありがとう!大好き!!」
そんな感じで他愛のない会話を重ねた。久々に会う友達は、離れて少ししか経っていないのにどこか変わっていた。だけれど、2人でいる時間は相変わらず楽しかった。
気づけば、空は暗くなり、屋台が照明になってきている。
「ちょっとあたし、花火がよく見えるとか教えてもらったところが、どんなところか見てくる!」
「ありがとう!伊織!気をつけて!」
目的地へ一人歩く。それとともに、楽しそうな人々の声が遠く感じられる。しかしそれは、花火が綺麗に見える場所であるための代償なのかもしれない。花火の時間が近づいているのだから、当然空は暗く、それに、何と言っても自発的に一人できた。自業自得という言葉がぴったりだろうが、暗いし、一人という状況に畏怖を抱いてしまう。だから、走る。ただ、遠くから見える屋台の明かりだけが頼りだった。目的地に到着すると、ベンチがぽつんと置いてあった。ベンチが置いてあるぐらいなのだから、実に花火がよく見える場所なのだろう。
(…あった!疲れたー!)
達成感に浸れるのも束の間。
(…って、ハンカチなくしてんじゃん…最悪。)
ハンカチを探しに、来た道を戻るほど体力は残っていなかった。
「ねぇ伊織くん」
「…はい、どうされました?…ってクラスの人」
「このハンカチ君のでしょ?」
「そう、ありがとう!」
今のあたしにとっては救世主。立ち上がって、柚希の元へ向かう。自分の浴衣の裾に引っかかり、前方へ転びそうになった。
「…やば」
すると、柚希が支えてくれた。
「…ありがと!」
「…裾で転ぶなんてばか?あほ?」
「…失礼すぎない?…でも、ありがとう!てか、なんでここに来たの?」
「…たまたま通りかかったら、走ってる伊織くんと、落ちたハンカチ見つけたから、届けに来ただけ」
「そうなんだね!…てか、ここ花火がよく見れるんだって!」
「てか、クーキャラ崩れてるよ」
「…え?バレてた?」
「一貫性ないなーって」
「は?…え、でも、イケメンじゃない?あた…自分!」
「ほら。全然なりきれてないよ。伊織ちゃん」
「…たしかに?」
「…俺予定あるから、じゃあね。伊織ちゃん」
と言って、柚希は去っていった。
(…はじめて話したんだけど、なんでキャラ作ってること知ってるの?…まあ、梨乃待たせてるし、戻ろ!)
その後、友達の梨乃と難なく花火を見ることができた。
翌日学校では。クラスメイトは、夏祭りの余韻に浸っているのか、楽しそうな話し声ばかりだった。一方伊織は、課題に追われていた。夏祭りに時間を投資したツケが回ってきたのかもしれない。
「おはよ、伊織ちゃん」
「おはよう…」
話すこともないし、なにより課題を終わらせていない。だから、挨拶だけ返し、そのままノートへ向かう。
「今日は、違うんだ?」
「今日はってなに!」
「伊織ちゃんだ」
柚希はそれだけ言い残し、去っていった。
(なにがしたかったの…?てか、少女漫画のシチュエーションを平然とできる人いるんだ…。)
コメント
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みぃです🥀読了しました〜 伊織ちゃん、めっちゃ可愛いんですけど…!「あたしメロすぎない?」って鏡の前で自分に恋しそうになるの、分かるよその気持ち(笑)キャラ作ってるつもりが柚希くんに「一貫性ないなー」って見抜かれちゃうところ、クスってなった。でもハンカチ届けに来てくれて、裾で転びそうになったところを支えてくれるの、少女漫画すぎるでしょ…!夏祭りの花火のシーンと、次の日の「今日は違うんだ?」って柚希くんのセリフの余韻がすごくいい。続きが気になります🌙✨
#溺愛
桜咲かな
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