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「あのがガンを患っていたとか言う、君のアシスタントかい?元気そうじゃないか」




車窓から流れる光が定正の顔をほのかに照らす




「ハイ、すっかり良くなったみたいでよかったです、彼には今ゴルフを始める様に進めています、モノになりだしたら、三菱製薬の秘書達と手合わせさせようと思っています」



「良い傾向だね、自分の懐に入れた人間にはとことん良くしてあげなさい、彼は忠実に動いてくれそうだね」


「そう願いたいですね」




鈴子は小さく笑って視線を定正に戻した、すると定正の手が彼女の手に伸び、温かく力強い感触でそっと握られた、彼はクイッと片眉を上げ、チラリと彼女を見た



「浮気するなよ」



その言葉に鈴子は思わず声を上げて笑ってしまった、この男性ひとよりも魅力的な人がいたらお目にかかりたいものだ




愛人になって三年・・・彼の傍で過ごしてきた鈴子にとって、定正はただの権力者ではなく、時に少年のような無邪気さを見せる人間だった、最近ではこんな軽やかな冗談を口にするようになり、彼女の心に温かいものが広がった



リムジンの揺れが心地よく、まるで二人の間に流れる時間が少しだけ柔らかくなったようだった




しかし定正の次の言葉がその空気を一変させた




「来週の神野外務大臣主催の晩さん会には・・・」


鈴子は即座に応じた



「ハイ、私を含め、弊社5人の幹部が参加します」




定正は窓の外を流れる神戸の夜景に目をやってゆっくりと言葉を紡いだ



「そうか・・・私は妻と参加することになったよ」




鈴子の心臓が、突然重い音を立てた、必死で顔の表情は変えず、穏やかな微笑みを保っていたが、胸の奥で何かが締め付けられるように疼いた




百合の存在は二人の間では決して触れることのできない聖域だった



公式の場で・・・いよいよ待ち望んでいたその聖域と対峙する瞬間がやってくる・・・

鈴子の指が膝の上でぐっと力が入った、定正は彼女の微妙な変化に気づいたのか静かに続けた




「公式の招待なんでね・・・もし・・・君が嫌なら他の人に変わってもらっても―」


「私は平気です」




鈴子は短く、はっきりと答えた




―いよいよだわ―




百合・・・定正の生妻にまんまと収まっている女・・・その名前は鈴子の胸に鋭い棘のように刺さった



今あの女はどんな人間なのだろう・・・優雅で、気品に満ち、定正の隣に立つにふさわしい存在なのだろうか



今まで鈴子は定正の傍で完璧な秘書として愛人として振る舞ってきた



だが、百合の前では自分は何者なのだろう・・・愛人という言葉が初めて彼女の心に冷たく重く響いた



鈴子は握る拳にぐっと力が入った、爪が掌に食い込む、痛みが彼女を現実につなぎ止めた



激しく胸の奥で小さく震える感情は、彼女自身にもまだ名付けられないものだった


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