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トイレ掃除が終わるとすぐに昨日訪れてマンションに向かった。
「実はここ、作業場でさ。自宅じゃねえんだわ」到着するとすぐに石川は言った。それは薄々分かってたことだったから。それに昨日は目隠しの布がかかっていて見えなかったデスクトップのパソコンをはじめとしたあまり見たことのない形の機械の数々が今日は姿をあらわしていた。
「で、木崎はあっちじゃなくてこの部屋で仕事を頼みてえんだわ」
この部屋? 建築現場じゃないのか? もしかしてなんか違う作業なのか?
石川は作業机の側のキャビネットの引き出しを開けて、何かの紙を取り出した。それは〈食品衛生責任者の受講終了証〉だった。そしてもう一枚は同じ色の紙だった。
「これと同じものを作って欲しいんだよね。俺も器用じゃないわけじゃないけど……なんつーか嫌いなんだ、こういう細かい作業」石川はそう言って頭を掻いた。
この証書を作る仕事なのか? 石川は作業机の上のパソコンを起動させる。いろんな名称の資格のフォルダが並んでいた。
「フォルダに現在使われてる証書と同じものが入ってる。それに名前と番号入れてこの紙に印刷して」
そう言って今度はリストを俺に渡した。
「それを印刷したらあっちの機械でパウチ加工して。それから」今度は下の棚からブルーの塩ビ素材のようなものを取り出した。
「神奈川の〈食品衛生責任者手帳〉。これも表紙印刷して。あと」
まだあるのかよ? 俺はメモを取りたい衝動に駆られる。
「で、これがプレートの見本。食品衛生プレートってフォルダのところをそのまま印刷してくれればいい。印刷するプレートはこの引き出しに入ってるから。
石川は見本を作業机の上に放った。
「なんか聞きてえこととかあるか?」石川はさっさと説明するとそう言った。俺は「いや」とだけ答えた。なにか聞いたら今までの説明を忘れてしまいそうだ。
「じゃあ俺ちょっと出てくるわ。一応使うものとかは引き出しに入ってるから適当に探して使っといて」そう言ってだるそうに髪をかき上げるとさっさと出て行ってしまった。いや、本当は作業じゃなくて聞きたいことが山のようにある。だが予定があるなら仕方ない。俺は引き出しを開けて紙とペンを探し出した。石川が言ったことを急いで書きつけた。それから溜め息なのか深呼吸なのか大きく息を吐いた。よし! とりあえず取り掛からねば。