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晴れた休日の昼下がり。
リビングのソファにごろりと寝転び、横目でキッチンに立つ佐久間を見ていた。
「阿部ちゃーん、ちょっと出かけてくる」
カチャリ、とマグカップを置いて、佐久間がポケットに財布を滑り込ませながら言った。
「…どこに?」
身を起こして、まばたきを一つ。
「予防接種。今週忙しくなるから、今日のうちに行っとこうと思って」
「…そっか…」
ソファの背もたれに肘をつきながら、何かを考えるように小さく唸る。
佐久間がスニーカーのかかとを踏みながら、振り向いた。
「なに? 心配?」
「…ちょっとね」
ソファから立ち上がり、佐久間の方へ数歩近づいた。
そして、何の前触れもなく、そっと額に唇を落とす。
「…何、めずらしーね」
佐久間は目をぱちくりしていたが、すぐに頬がゆるんで笑顔になった。
「そういう気分。…いってらっしゃい」
「ふはっ…いってきます!」
少し照れたように笑って、佐久間は手を振りながら玄関のドアを開けた。
その後ろ姿を見送りながら、小さく息をつく。
「…無事に、かえってきますよーに」
ひとりごとのように呟いて、そっとリビングのカーテンを閉めた。
そしてまた、ぬくもりの残るソファに腰を落とす。
出かけた佐久間のことを思いながら──。