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侍女長の横領事件に伴う緊急会議。混乱し、言い訳を並べる大臣たちを前に、私は黒板を真っ二つに分ける一本の縦線を叩きつけた。
「いい? 今までの帳簿は、ただ『使ったお金』を書くだけの、小学生のお小遣い帳以下。だから横領を見逃すのよ。これからは――左右で数字を挟み撃ちにするわ」
私は黒板の左右に、文字を刻む。
「覚えなさい。左側が『借方(か・り・かた)』、右側が『貸方(か・し・かた)』。覚え方は簡単よ。『かり』の『り』は左に払うから左側。『かし』の『し』は右に払うから右側。それだけ!」
大臣たちは「な、なるほど……」と、真剣に黒板を仰ぎ見る。
「例えば、『石鹸』を100ルク購入したとしましょう。その場合、帳簿にはこう記すのよ」 「左(借方)に『石鹸』100。右(貸方)に『現金』100。左側は何を得たか。右側はどうやって支払ったか。この二つは、1ルクの狂いもなく、鏡合わせのように一致していなければならないの」
私はチョークの先で黒板を強く突き、大臣たちを射抜いた。
「もし右側の『現金』が減っているのに、左側の『石鹸』が倉庫になかったら? 答えは一つ。誰かがその現金を盗んだということよ。……これが、不正を許さない『複式簿記(ダブルエントリー)』よ! 理解した?」
「……は、はいっ!」
「なら、今までの書類すべてを『複式簿記』に書き換えなさい。一秒でも早く!」
私が冷徹に命じた瞬間、白髪の大臣たちが弾かれたように動き、必死の形相でペンを走らせ始めた。
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