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※基本、タイキ視点
照明が落ちたあと、まだ熱の残るステージ裏。
ルイは先に歩いていたタイキの手を、ためらいなく掴んだ。
「……ちょ、ルイ……」
声が裏返る。
その一瞬で、タイキは理解してしまう。
――まずい。
それだけでルイの口角が上がる。
距離を詰められて、タイキは一歩下がる。
背中が壁に触れた瞬間、完全に逃げ場がなくなる。
「……近いって…!」
耳まで真っ赤。
視線は合わないのに、逃げ場を探して忙しなく揺れる。
ルイはその様子を、捕まえた獲物を見る目で見ていた。
「照れてるタイキ、反則なんだけど」
顔が近づく。
触れるか触れないかの距離で止められて、喉が小さく鳴る。
(……まずい、これ)
分かってるのに、身体が言うことをきかない。
「ステージではあんなに強気なのにさ」
「今は、俺の前だとこうなるんだ」
囁きが耳に落ちて、思考が鈍る。
「……っ…」
肩に腕を回される。
表向きは仲間同士の距離。
でも、その内側は完全に違う。
「かわいい」
一言で、思考が飛ぶ。
「言うな……っ!」
怒ってるような声とは裏腹に、耳の赤さが隠せない。
ルイは満足そうに息を吐いた。
「これ以上やったら、タイキ壊れるからな」
「……っ、壊れない……」
震えた反論に、ルイは笑う。
「はいはい」
「その照れ、全部俺のだから」
一人残されたタイキは、しばらく動けなかった。
――距離が近いのは、今に始まったことじゃない。
でも、プレデビューが決まってから、明らかに違う。
公の場では減って、誰もいないところだけを正確に選ばれる。
意識しない方が無理だった。
控室の扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
まだ、誰もいない。
(……やば)
思った瞬間には遅かった。
振り向いた時には、もう距離はなくて。
ルイが詰めてくる。
後ずさるしかない。
化粧台に足が当たって、小物が落ちる。
音が、やけに現実を突きつける。
「な、何…?」
一瞬、視界が暗くなる。
すぐ近くに、ルイの顔。
「……っ!!」
唇が離れたあと、遅れて理解が追いつく。
「な、にして…」
腕で口元を隠す。
心臓の音がうるさい。
「キス」
淡々と言うルイが。余計にヤバい。
(……キス、は違うだろ、ルイ……)
それはもう、仲間の距離じゃない…
そう叫びたいのに、言葉にならない。
今、理由をつけてしまえば、本当に戻れなくなる。
「ほら、またその顔」
逃がさない目。
冗談の余地がない。
「嫌なら止めるよ」
「でも、止めてって言う?」
言えない。
唇に残る感触が消えない。
心拍数も上がっていく。
「………」
(やばい、これ以上考えたら)
「だよね」
背中を引き寄せられて、腕が剥がされる。
「照れてるタイキ、ここまで来たら反則」
頷けない。
否定もできない。
キスの余韻が消えないまま、距離が詰まる。
「……待っ……」
言葉は途中で切れる。
額が触れて、鼻先がかすめる。
「待たない」
低い声。
いつもより、ずっと深い。
「意識してるくせに逃げようとしてるの、全部分かってる」
首まで熱い。
視線が泳ぐ。
「だって…こんなの、聞いてない……」
「聞かせてないだけ」
「これくらいしないと、タイキ気づかないだろ」
手を取られる。
自然すぎて、拒めない。
(……ほんとに、やばい)
「俺の前だと正直になってること、そろそろ気づいて」
メンバーが戻るかもしれない。
分かってるのに、それ以上考えられない。
「…やめ…」
弱い声。
「やめない」
即答。
もう一度、キス。
短い。でも、逃げ道が塞がれる。
離れた瞬間、息を大きく吸う。
「…ひど……」
「褒め言葉?」
違うと言いながら、離れられない。
手を離したのは、必死な抵抗だった。
ルイは一瞬だけ表情を緩める。
「照れてるままでいいよ」
「その全部、俺が受け止めるから」
(…なんで、そんな顔でそんなこと言うんだよ…)
感情が言うことをきかない。
タイキは無意識に、ルイの服を掴む。
気づいた瞬間、喉が鳴る音。
「ほら、離れられてない」とルイ。
否定できない沈黙。
最後に、額に触れて。
「続きは、タイキがちゃんと俺を見るようになってから」
「その時は、逃げ道、用意しないから」
廊下から声が聞こえる。
慌てて手を離す。
何もなかった顔で、距離が取られる。
残されたタイキは、深く息を整えた。
(ちゃんと見るって、なんだよ…)
心臓の音が、まだうるさい。
キスの意味も、
服を掴んだ理由も、
考えなきゃいけないのに。
考えたら――
戻れなくなりそうで、怖かった。
(後から冗談でした、は……きつい)