TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する


「まあ!岩崎様!」


「御母上様、ご歓談中、おじゃましまして……」


月子親子が、楽しげに寄り添っている姿を見てか、岩崎は少し遠慮がちに言った。


「岩崎様!本日は、お招きありがとうございます。本当に立派な演奏会で……」


母は、言葉に詰まっている。


久方ぶりの外出ということもあるだろうが、言葉通り学生達の演奏は見事なもので、母だけではなく、会場に集まっている観客も、サクラだからという事を超え、心から喜んでいた。


「いや、そう言って頂くと、学生達の励みにもなります」


岩崎は、再び照れくさそうにした。


「あら、私ったら!月子!母さんのことはいいから……」


岩崎は月子に会いに来たのではないのかと、母に示唆され、月子はたちまち、モジモジする。


確かにそうなのかもしれないが、母に言われると正直照れた。


妙に意識し会う岩崎と月子に、梅子が一言……。


「あら?京介様どうしてこちらへ?やっぱり、月子様の事が気になるんですか?大丈夫ですよ?月子様も十分楽しんでおられます」


「いや、梅子、そうではなく、い、いや、その、月子!そうではなくというのは、そうではなくて!だからっ!お咲だっ!」


梅子の一撃に、岩崎は、しどろもどろになっている。


「え?お咲?」


月子ではないのか、どういうことだと、梅子はきょとんとした。


そして、お咲も呼ばれ、何事だろと振り返る。


「あっ、いや、幕間が迫っているからな、お咲を連れに来たんだ」


「あー!そうだ。ほんとだ!お咲!出番だよ!男爵家の面子というものも考えないといけないよ。しっかりやるんだよ!」


演目表を確かめた梅子は、お咲を激励した。


「は、はい!」


梅子の激励の意味を分かっているようで、お咲は顔をキリリと引き締めている。


「はいよー!お待ちどう!ちょっと早いけど、お持ちしましたよっ!幕間に食べてくださいよっと!」


軽快な声がして、重箱を持った二代目か現れた。


「京さん!楽屋にも弁当配ったから、京さんも食べに戻りなよ!」


「じゃあ、田口屋さんは?ここで、一緒にどうですか?」


梅子がニタリと笑い二代目を誘うが……。


「あー!梅子!すまねぇなっ!俺、外の学生さんと交代するんだ。ってことで、おさらばっ!」


片手をあげ、二代目は、バタバタと桟敷席から出ていった。


「もう!一緒になるって言ったくせに!お弁当ぐらい食べたっていいでしょう?!逃げることないのにいっ!」


不機嫌そうに梅子が言っているが、月子は、ふと岩崎を見た。


外の学生と交代ということは……。


劇場にやって来た時、中村と出会った事を思い出す。


もしかして、不参加の学生は、結局来ておらず、それを待っているのだろうか?


確か、梅子に見せてもらった演目は、最後、いわゆるトリに、玲子の名前が記されていた。


来ていないのなら、どうするのだろう。


「お咲、行くぞ。弁当は、唄ってからゆっくり食べるといい」


岩崎の言い分にお咲は、こくんと頷いた。


「月子、心配しなくていい。なんとかなる……」


どこか含みのある言葉を残し、岩崎は、月子の母へ会釈をすると、お咲の手を引いて立ち去った。


やはり、玲子は来ていない。


そう感じとった月子だが、なんとかなると言われても、演奏者が居らずして、どう、なんとかなるというのだろ。


岩崎に考えがあるのだろうか……。


月子は、一抹の不安を覚えながら、岩崎とお咲を見送った。

loading

この作品はいかがでしたか?

48

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚