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さすよめ。なんて言葉を聞いたからか、王都に居る転生者たちに興味が湧いた。
割とたくさん転生して来ていると、前に聞いていたのも思い出した。
どんな人が転生して、どんな生活をしているのか。
――会ってみたい。
私みたいに、命を狙われたりしたのかとか。
それとも、そんなことは一度も無くて平和な人生なのか。
私は今かなり、気持ちが落ち着いているらしい。
こんな風に他人に興味を持つなんて。
それも魔族の皆ではなくて、人間に。
きっと日本から来たのだろうとか、でも、もしかすると外国人の転生者もいるのかもしれないとか、妄想が膨らむ。
簡単な英語さえ話せないけど、ここの言語に統一されているだろうから……大丈夫だろうし。
――この日の残りは、そんなことを考えながら過ごした。
いつも通り平和で、何をするでもなく過ごす日々の、その一日。
少し物足りなくもあり、だけど、安心で満たされた時間。
**
真夜中を過ぎて、もう明け方だろうか。
薄く、申し訳程度に窓の角を照らすのは、星々や月明かりでは持ち得ない力強さがあった。
――今なら、魔王さまよりも早起きなのでは?
初めて、魔王さまの寝顔を見られるかもしれない。
私にとっては完璧で、非の打ちどころのない魔王さまでも、寝顔くらいは間の抜けた顔でも構わないし、むしろそれを見てみたい。
そう思って、背を向けていた姿勢から、振り返ろうとした時だった。
――うめき声を聞いた。
「う…………うぅ……」
低く、重く、鈍い苦痛を思わせる、唸り声のようなうめき。
「魔王さま?」
早く起こして差し上げなければ。
「魔王さま、魔王さま」
驚かないように、だけどなるべく強く、体を揺する。
優しくしても、起きてくれなければ意味がないから。
「う……。サラ」
「魔王さま。うなされてましたよ? 怖い夢でも見たのですか?」
「サラ……。来い」
薄目を開けた魔王さまは、夢を引きずった怖い顔のまま私を抱き寄せた。
腰に回された腕は、いつもより少し強くて、少し震えている。
「……ちゃんと、お側に居りますよ?」
私を襲う時の獣の目ではなく、私をやっと探し出したかのような、そんな目をしているように思って、そう伝えた。
いなくなんて、ならないですよと言った方が良かっただろうか。
「……それならいい」
気持ちが伝わったのか、魔王さまはいくぶん安堵したような、穏やかな呼吸に戻られた。
そして私の胸に顔を埋めると、おもむろに、ネグリジェごと舌を這わせて私を鳴かせようとする。
「あっ……もぅ、魔王さまったら。うなされてらしたのに」
「ああ、そうか……起こしてくれたんだな。ありがとう」
このまま抱かれるには、私の気分が乗りきらない。
魔王さまがうなされるようなこととは、一体どんな内容の夢なのか、さっきからずっと気になっているから。
そういえば――。
私は、魔王さまが眠っているところを、今さっきを除いて見たことがない。
「魔王さま、ちゃんとお休みになっていますか? 求められるのは嬉しいのですが、ちょっと気になって……」
その問いには、答えるつもりが無いのかと思うほどに、私の胸の先端を弄んでいる。
「あぁ、休んでいるさ」
ちらりとだけこちらを見て、息継ぎのついでに、という感じのそっけない返事。
でも、いつもの獣の目に戻っていた。
「もぅ……」
その非難は、魔王さまには届いていない。
スイッチが完全に入ったのか、それともまだ、悪夢を引きずっていて、それを払拭したくてそうなのかは分からないけれど。
こうなると、私が逃げるそぶりを見せようとも、容赦なく取り押さえられる。
むしろ、嫌がるような仕草はスパイスになってしまうらしく、より一層、いつもより執拗に求められてしまう。
その頃には私も、その気になってしまっているのだけれど――。