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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第68話:ハリウッド女優、レシピを熱望す〜光るソイミートと、10万ドルのレシピ〜
シロの純白の肉球がもたらした奇跡によって、パサパサの代替肉(ソイミート)が『七色に光り輝くA5ランク和牛バーガー』へと変貌を遂げた、その直後。
限界集落の古民家から発信されている【日常チャンネル】のチャット欄は、いまだかつてないほどの熱狂と混乱の渦に飲み込まれていた。
「お、お兄さん……これ、本当に大豆なんですよね……? 飲み込んだ後も、口の中に極上の和牛の甘みがずっと残ってるんですけど……」
小春ちゃんが、信じられないものを見るような目で、自分の両手におさまった『ゲーミングバーガー』の食べかけを見つめている。
「ああ。近所のスーパーの乾物コーナーで、一袋298円で買ってきた正真正銘の大豆ミートだ。俺の財布に、本物の和牛を買う余裕なんてあるわけないだろ」
「毎日あれだけ高額なギフトを頂いているのに、お兄さんの心境、完全に貧乏性のままですね……」
「当然だ。MeTubeの収益振り込みはまだ先だし、仮に入ったとしても来年の税金と国民健康保険料を考えたら、298円でも贅沢な部類に入る」
俺もまた、滴り落ちる透明な肉汁(マイナスイオン)を啜りながら、その暴力的なまでの美味さに内心で戦慄していた。
シロの神聖力が注入されたことで、植物性タンパク質が完全に『未知の極上食材』へと昇華されている。しかも、胃もたれゼロ。
まさに、全人類が夢見た「いくら食べても太らない、世界で一番美味い肉」の誕生である。
その時だった。
ジンバルにセットされたスマホの画面が、突如として真っ赤に染まった。
文字通り、画面を埋め尽くすほどの『赤色のMeTubeギフト』が、滝のように連続で投下されたのだ。
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト)=”Master!! Are you listening!? I need that recipe right now!!“(主よ!! 聞いてる!? 今すぐそのレシピが必要なの!!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト)=”I have a red carpet premiere next month! I am on a strict diet and eating only grass like a rabbit!“(来月、レッドカーペットのプレミアがあるの! 厳格なダイエット中で、ウサギみたいに草ばっかり食べてるのよ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト)=”But that burger! It’s soy meat, zero cholesterol, yet it looks like the ultimate Wagyu! That glowing meat is the Holy Grail of diets!“(でもあのバーガー! 大豆ミートでコレステロールゼロなのに、究極の和牛にしか見えない! その光る肉はダイエットの聖杯よ!)』
世界的な超トップスターであるシャーロットが、深夜のテンションも相まって、完全に理性を失って高額ギフトを連打していた。
「……なんか、ハリウッドセレブがものすごい勢いでキレながら懇願してきてるぞ」
俺が呆れ顔でチャット欄を読み上げると、小春ちゃんが慌ててスマホを覗き込んだ。
「お兄さん! シャーロットさん、本気ですよ! レッドカーペット前の女優さんにとって、カロリーゼロで美味しいお肉なんて、喉から手が出るほど欲しいに決まってます!」
『シャーロット様が完全に発狂してるww』
『草ばっかり食べてるハリウッド女優(泣ける)』
『ダイエットの聖杯www 確かにこれは革命だわww』
『光る肉を欲しがるセレブww』
世界中のリスナーたちが爆笑する中、シャーロットの猛攻はさらにエスカレートした。
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト)=”I’ll pay $100,000 for the exclusive rights to that recipe! My personal chef is waiting for your instructions!“(あのレシピの独占権に10万ドル払うわ! 私の専属シェフがあなたの指示を待っているの!)』
「……じゅうまんドル。最近のドル円レートから換算すると、およそ一千五百万円くらいか」
俺は、手元の298円の大豆ミートの空き袋と、画面の数字を交互に見比べた。
「お兄さん! 一千五百万円ですよ!? このバーガーの作り方を教えるだけで、お家が建ちますよ!!」
小春ちゃんが俺の肩をバシバシと叩いて興奮する。
だが、俺は至って冷静に、ほうじ茶を一口啜ってからカメラに向かって語りかけた。
「シャーロットさん、高額なギフトありがとうございます。ですが、独占権も何も、教えるような秘密のレシピなんて存在しません」
『えっ?』
『主、10万ドルを蹴るのか!?』
『嘘だろ、あんなに光ってて美味そうなのに秘密がないわけないだろ!!』
「本当に、ただの大豆ミートなんです。動物にも安全なようにネギ類や香辛料は一切入れず、水で戻して、昆布ダシと椎茸粉末、それから少量の塩麹を練り込んだだけです。あとはフライパンで焼いただけ。専属シェフの皆さんに教えるような、高度な調理技法は一切使っていません」
俺が正直に答えると、チャット欄は一気に大荒れとなった。
『嘘をつけえええええええ!!』
『俺たち見たぞ!! シロ様が肉球でポンッてやったのを!!』
『ただの昆布と椎茸のダシで、大豆が七色に光るわけねえだろww』
『神獣のダシ(オーラ)が効いてるんだよ!!』
『(ミシュラン三ツ星シェフからの$500MeTubeギフト)=”Impossible! That level of meat juice cannot be produced by soy! You must have a secret molecular binding agent!“(あり得ない! あのレベルの肉汁が大豆から出るはずがない! 何か秘密の分子結合剤を使っているはずだ!)』
一流の料理人までもが、俺の「ただの大豆です」という言葉に噛み付いてきた。
俺は深い深いため息をつき、いつものように感情を完全に排したフラットボイス(元社畜の極意)を発動させた。
「……皆さま、落ち着いてください。これは決して、神獣の奇跡などという非科学的なものではありません」
『出たァァァァァ!!!』
『主の限界言い訳タイム・レシピ公開編ww』
『10万ドルをドブに捨ててまで言い訳を貫く男ww』
『さあ、三ツ星シェフをどうやって論破する気だww』
俺は、カメラのレンズを真っ直ぐに見つめ、淀みない口調で言い放った。
「大豆ミートが和牛の味になったのは、限界集落の清らかな水で戻したことによる『ミネラル分の浸透圧効果』と、昆布と椎茸に含まれる旨味成分(グルタミン酸とグアニル酸)が、熱反応で結合して擬似的な『和牛香(ラクトン類)』を生成したからです」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、食べかけのゲーミングバーガーを握りしめながら絶叫した。
「昆布と椎茸のダシだけで和牛の匂いになるわけないでしょ!! 三ツ星シェフがそんなの信じるわけないじゃないですか!!」
俺は小春ちゃんのツッコミを華麗にスルーし、さらに言葉を続ける。
「そして、パティが七色に光っていたのは、換気扇の油汚れがフライパンの熱気で気化し、スマホのライトの光を乱反射させた『プリズム現象』に過ぎません。ええ、ただの劣悪な住環境がもたらした光のイリュージョンですね」
「だから、お肉自体が内側からネオンみたいに発光してたでしょうが!!」
小春ちゃんがこたつの天板をバンバンと叩く。
「それにさっきは『バンズの油の構造色』って言ってたのに、なんで今度は『換気扇の油のプリズム現象』に設定が変わってるんですか!! 苦し紛れに言い訳を量産しないでください!! 10万ドルもらえるんだから、素直に『シロちゃんの奇跡のおかげです』って言いなさいよ!!」
『小春ちゃんの完璧な正論パンチww』
『主、言い訳の設定ブレブレで草』
『さっきの構造色設定どこいったww』
『適応力バグおじさん、ついに自分の嘘に矛盾が生じる』
『三ツ星シェフ「昆布と椎茸粉末……だと……?」』
『シャーロット発狂不可避ww』
俺の理不尽極まりない現実逃避と、小春ちゃんの鋭すぎるツッコミに、250万人の視聴者たちは腹がよじれるほどの大爆笑に包まれた。
『ミャウ(私のレシピは非売品よ)』
こたつの中で丸くなっていたシロが、俺の足にスリスリと身を寄せながら、誇らしげに喉を鳴らした。
「ほら、シロもこう言ってる。ハリウッドセレブだろうが石油王だろうが、この味は我が家の専売特許だ」
俺は笑いながら、残りのゲーミングバーガーを大きな口を開けて頬張った。
サクッ、ジュワァァァァァ……!
何度食べても、脳が蕩けるような美味さだ。
ハリウッドの超高級レストランでも絶対に味わえない、世界でここだけの究極のジャンクフード。
「まぁ、シャーロットさんも、レッドカーペットが終わったら北海道に遊びに来てくれ。その時は、俺が298円の大豆ミートで極上のバーガーを奢ってやるよ」
俺がそう画面に語りかけると、チャット欄にはシャーロットからの『泣き顔の絵文字』と『飛行機のチケットの絵文字』が大量に流れていった。
外はすべてを凍らせるような猛吹雪。
だが、限界集落の古民家には、神獣がもたらす奇跡のディナーと、世界中のリスナーたちとの温かい笑いが、今日もポカポカと満ち溢れているのだった。
コメント
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第68話めっちゃ面白かった!ハリウッド女優シャーロットが10万ドルでレシピ買いたいって発狂するシーン、最高すぎたw でも主人公が「ただの大豆ミートです」って科学的な言い訳で逃げ切ろうとするのがもう、らしさ全開で笑ったわw 小春ちゃんのツッコミも冴えてて、「構造色って言ってたのに、今度はプリズム現象!?」って正論パンチ決めたとこが特に好き。シロちゃんの肉球がもたらす奇跡、やっぱ非売品だよね~。次回はシャーロットが本当に遊びに来るのか気になる🔥