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里奈に叩かれ、修羅場を演じたあの日から、健一は目に見えて憔悴していた。
帰宅しても以前のような威勢はなく
腫れた頬を隠すようにしてリビングの隅でスマホを眺めている。
私はそんな彼を空気のように扱いながら
鼻歌まじりに明日の「自分磨き」のスケジュールを確認していた。
「……おい、奈緒」
掠れた声で健一が呼ぶ。
「何?」
「……お前、最近、何かあったのか? 急に冷たくなったというか…いや、その……」
健一の目は、明らかに泳いでいる。
里奈という「感情的で攻撃的な若さ」に触れたことで
彼は無意識に、穏やかだったと思っている家庭の居心地を思い出し始めているのだ。
勝手な男。私を「終わった女」と切り捨てた口で、よくもそんなことが言える。
「冷たくなった? 心外ね。あなたが望んだ『干渉しない生活』を叶えてあげているだけよ」
私はパックをしながら、冷徹に言い放つ。
「……そうだけどよ。あー、もう、どいつもこいつも!!」
健一は自室へ逃げ込んだ。
ほどなくして、私の手元にある「ナオミ」用のスマホが震える。
『健一:ナオミちゃ〜ん😭💦💦
昨日はほんっっとにお見苦しいところを見せちゃってごめんねぇ…反省してます…😢🙏💦』
『いやね??あの女なんだけどさぁ😓💧本当にただの仕事関係の人でね??💼むしろこっちが一方的に好かれてて困ってる側なんだよ〜💦💦でもでも!!ナオミちゃんにだけは絶対に誤解されたくなくて…🥺✨俺が大事にしたいのはナオミちゃんだけだからね??😘💓(ここ重要☝️笑)』
(一方的に好かれて困っている? よく言うわ)
私はわざと、既読をつけてから十分放置した。
そして、涙を流す絵文字を添えて返信する。
『ナオミ:信じたいです……。でも、あんなに激しく言い合っているのを見て、私、怖くなってしまって。健一さんは、もっと優しくて落ち着いた方だと思っていたから……』
すぐさま、必死の言い訳が連投される。
『健一:違うんですってばぁ…昨日の俺、あれ本当の姿じゃないんですぅ…😢🙏普段はもっと冷静なんですよぉ…このまま嫌われるなんて耐えられないデス…💓😣ナオミさんだけなんです…俺のこと分かってくれるの…🥺✨お願いですぅ、一度でいいから会って話させてください…☕️🙏』
「耐えられない」、か。
愛人の里奈には「仕事だ」と嘘をつき
妻の私には「余生を楽しめ」と暴言を吐き、見ず知らずのナオミには「唯一の理解者」と縋り付く。
この男の心は、どこまでスカスカなのだろう。
私は追い打ちをかけるように、里奈のアカウント(サレ妻の味方)から、里奈にメッセージを送った。
『サレ妻の味方:里奈さん、健一さんはあの後「あんな女、こっちから願い下げだ」と周囲に漏らしているみたいですよ』
『今夜、彼はまた別の女性と連絡をとっています。今のうちに彼を繋ぎ止めるために、彼の弱みを握っておいた方がいいのでは?』
嫉妬に狂った里奈は、すぐに飛びついた。
『里奈:許せない。あいつ、私の若さを利用するだけ利用して……! 会社の経費を私とのデートに使ってた証拠、全部スクショしてあります。バラしてやります』
(そう、それでいい。どんどん壊し合って)
◆◇◆◇
翌朝
健一は目の下に隈を作り、フラフラと出勤していった。
私は彼を見送った後、クローゼットを開ける。
そこには、健一が「ナオミ」に贈りたいと言っていたブランドの最新バッグ……
の偽物を、私が自分で購入しておいたものが置いてある。
健一に、こう言わせるために。
「ナオミに相応しい贈り物をしたい。でも、金が足りない」
私は健一の財布から、こっそり抜いておいたクレジットカードの明細を眺める。
彼は今、里奈への口止め料と、ナオミへのプレゼント代で、経済的にも追い詰められつつある。
家の中では、一言も交わさない。
でも、画面越しに私は、彼を確実に支配していた。
「…次の給料日が楽しみね」
私は鏡の前で、ナオミとしての「微笑み」を練習する。
それは、獲物を飲み込む瞬間の蛇のような、美しくも残酷な笑みだった。
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#大人ロマンス
#サレ妻