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#魔王
青空美空
8
ruruha
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298
於田縫紀
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◇
会議が終わり、それぞれが自分の持ち場へ戻っていく。
賑やかだったロビーも、少しずつ静けさを取り戻していた。
イリアは廊下をゆっくり歩きながら、小さくため息をつく。
「……。」
頭の中では、東棟の出来事が何度も繰り返されていた。
「結局……何だったんだろう……。」
燃え上がる食堂。
水で満たされた会議室。
そして、突然姿を消したクラゲ。
「クラゲも気になるし……。」
「サラマンダーの方も……。」
考えれば考えるほど、答えは見つからない。
「……ん?」
ふと視線を上げる。
医務室の扉が、少しだけ開いていた。
「……え?」
中を覗いた瞬間、イリアは思わず声を上げる。
「ら、ラグドールさん!?」
「……?」
ベッドへ腰掛けていたラグドールが、のんびりと顔を上げる。
「あ、どうも〜。」
「ちょっと……。」
イリアは胸を押さえながら苦笑する。
「びっくりしたじゃないですか……。」
扉を開け、医務室の中へ入る。
「ここ医務室ですよ…。」
「笑ってる場合じゃありません。」
ラグドールはわざとらしく首を傾げる。
「えー?」
「ラグドールさん、具合でも悪いんですか?」
「それとも怪我とか……。」
「大丈夫ですよ。」
ラグドールは両腕を広げて笑う。
「怪我なんてしてないですし。」
立ち上がって軽く一回転する。
「ほら。」
「ピンピンしてるでしょ?」
「いやいや……。」
イリアは呆れたようにため息をついた。
「なら具合が悪いんですね?」
「とりあえずベッドにいてください。」
「もー…。」
ラグドールは頬を膨らませる。
「イオさんまで……。」
「私、本当に平気なのに。」
「はぁ……。」
イリアは腕を組む。
「なら、どうして医務室にいるんですか?」
「……。」
あからさまに目を逸らす。
「……あ!」
「イリアさん知ってますか?」
次の瞬間には、いつもの調子へ戻り。
「柚子胡椒って、胡椒は入ってないらしいんですよ。」
「びっくりですよね〜。」
「雑学で話を逸らさないでください……。」
イリアは思わず額へ手を当てる。
「熱はなさそうですね…。」
「……まぁ…。」
ラグドールは少し照れくさそうに笑った。
「ちょっと前までは具合悪かったかもですけど。」
「でも今は。」
少し胸を張って。
「いつも通り の元気いっぱいな私なんですよ?」
「…ね? 信じてくださいよ〜。」
イリアはその笑顔をしばらく見つめる。
そして、小さく笑った。
「……分かりましたよ。」
「信じます。」
「ありがとうございます。」
ラグドールは嬉しそうに笑う。
「…あ。じゃあ…。」
イリアは少しだけ真面目な顔へ戻る。
「具合が悪かったなら、晩ご飯は何なら食べられます?」
「お粥とか……。」
「唐揚げで。」
即答だった。
「……。」
イリアは少しだけ目を丸くする。
「食欲はあるんですね……。」
「もちろんです。」
ラグドールは得意げに頷く。
「じゃあ。」
イリアはメモ帳を取り出す。
『晩ご飯・唐揚げ』
丁寧に書き込みながら笑う。
「今日は唐揚げにしますね。」
「でも。 ちゃんと安静にしていてくださいよ?」
「はーい。」
いつも通り、返事だけはとても良かった。
◇
医務室を出る。
ぱたん、と扉が閉まる音が廊下へ響く。
イリアは歩きながらメモ帳を見つめた。
「『晩ご飯・唐揚げ』……。」
さらさら、と書き足したその時。
「イリア?」
「ふわぁっ!?」
突然後ろから声を掛けられ、思わず肩が跳ねる。ララビットだ。
「ごめん。」
ララビットは少し申し訳なさそうに笑う。
「びっくりさせた?」
「い、いえ……。」
イリアは胸を撫で下ろす。
「ララビットさん、どうかされました?」
「いや、別に。」
ララビットは医務室の扉へ視線を向ける。
「……もしかして。」
「ラグドールと話した?」
「あぁ、はい。」
イリアも振り返る。
「医務室の扉が開いていて……。」
「ラグドールさん、具合が悪いらしいんですけど。」
「知ってる。」
ララビットは短く答えた。
「私が運んだから。」
「えっ?」
イリアは驚く。
「そうだったんですか?」
「うん。」
少しだけ表情が曇る。
「ラグドール。」
「……どうだったの。 何か話してくれた?」
「いえ……。」
イリアは困ったように笑う。
「はぐらかされちゃいました。」
「……。」
ララビットは小さく目を伏せる。
「まぁ。 そりゃそうか……。」
「あいつが自分から話すとも思えないし。」
「あはは……。」
イリアも苦笑する。
「確かに……。」
ふと、ララビットが抱えている本へ目がいく。
先程、ラグドールのために買い出しで買ってきた小説。
「あ。 その小説……。」
「…暇だから持ってこいって。」
ララビットは肩をすくめた。
「あいつ… ちょっと調子悪いからって。」
「パシリはないでしょ。」
「まぁまぁ……。」
イリアは優しく笑う。
「一応、感謝はしてくれると思いますよ?」
「…一応?」
ララビットがじっと見る。
「あ。」
イリアは慌てて手を振った。
「す、すみません……。」
ララビットは思わず吹き出す。
「…ふふ。」
「まぁ……とりあえず届けてくるよ。」
小説を抱え直し、医務室へ向かって歩き出す。
「そんじゃ。」
「はーい。」
イリアは笑顔で手を振った。
「行ってらっしゃい。」
その背中を見送りながら、ほっと息をついた。
廊下には、夕暮れの光だけが静かに差し込んでいた。
コメント
1件
第十話「医務室」、読みました! ラグドールさんの飄々とした感じと、それに振り回されつつも真摯に向き合うイリアさん、二人の距離感がとても素敵でした。「唐揚げで」の即答のシーン、思わず笑ってしまいました。ああいう自然なやりとりに、お互いをよく知る者同士の信頼がにじみ出ていてじんわりしました🌷 ララビットさんの登場も物語に優しい陰影をくれて、夕暮れの廊下の余韻が心地よかったです。