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脱出決行日時の五月四日の深夜。
拓人は、変わらず黙ったまま、瑠衣をバスルームへ連れていった。
『瑠衣ちゃん……』
彼がサングラスとワークキャップを外した瞬間、彼女は目を見開かせた。
『あなたは…………中崎…………さ……ん……』
『瑠衣ちゃん……今までずっと…………見て見ぬ振りをしていて……本当にごめん……』
『中崎さん…………どうして……ここに……』
『…………瑠衣ちゃん、君を助け出すためだよ』
『…………え?』
彼女は、拓人が目の前にいる事が信じられないようで、呆然としていた。
『ここにいる間、ずっと救出するタイミングを見計らっていたんだけど…………こんなに遅くなってしまって……本当にごめんね』
拓人は瑠衣を抱きしめ、ベージュブラウンの艶髪を撫で続けた。
『瑠衣ちゃん。日付が変わる頃、ここから逃げるよ』
『そ……そんな事…………』
突然の逃亡宣言に、瑠衣は不安げに拓人の顔を見上げた。
『深夜十二時くらいになると、ここを取り仕切っている送迎役のヤツらは、瑠衣ちゃんが逃げられないって分かっているのか気が緩んでいる。その隙に逃げるんだ』
『で……でも……』
『詳しい話は車で話す。瑠衣ちゃんの荷物はヤツらの部屋に置いてあるから、今から俺が上手い事言いくるめて持ってくる。三十分くらいしたら、またここに来るから、それまで待ってて』
『わ……わかり……まし……た……』
その後、隙をみて彼女を助け出した拓人は、監禁部屋から出ていこうとした瞬間、送迎役の一人に見つかってしまう。
慌てて拓人の黒いセダンに乗り込んだ二人は、命からがらに逃亡に成功したのも束の間、送迎役の連中も、すぐさま黒いバンに乗り込み、彼らを追跡してくる。
拓人のスマートフォンは、闇バイトに登録した際、居場所を特定して自動発信するアプリを仕込まれたため、瑠衣に頼んで電源を落としてもらった。
深夜の山道と、一般道をひたすら走り、拓人が、なぜここにいるのか、娼館の放火事件の全貌と、今回の闇バイトの件を説明する。
夜通しで車を運転している彼から話を聞いた瑠衣は、顔を濡らしながらも、拓人の話に耳を傾けていた。
拓人は、ようやくインターチェンジを見つけると、迷わず高速に乗り、東京を目指す。
夜が明けると、ドライブという名目で、お台場まで足を延ばし、レインボーブリッジが目の前に広がるパーキングで、拓人は、瑠衣に想いを告げた。
一方的に想いを打ち明けた彼だったが、これで良かったんだ、と思う。
彼女を東新宿の自宅近くまで送り、言葉を交わしたのは、これが最後となった。