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瑠衣と別れてから、拓人は、都内を転々とするも、常に身の危険を感じていた。
(二十三区内は…………いつか……見つかるだろうな……)
彼は、全身黒づくめの服装だった事に気付くと、銀座に立ち寄り、デパートでスーツとワイシャツ、ネクタイとカジュアルな服などを大量に買い込む。
男性用のトイレで、購入した服に着替えると、逃亡生活が長くなる事も考え、大型のキャリーケースも購入した。
(郊外だったら…………どこがいいかな……)
彼は、ステアリングを握りながら逃亡先を思案すると、ひとまず車を西へ向ける。
(郊外で大きな街といったら、立川か八王子辺りか……)
僅かな気力を何とか振り絞り、新宿から首都高速四号線に乗ると、拓人は都下に向けて走り続ける。
(逃げ回るのも……いい加減疲れた……少しでもいいから落ち着きたい……)
拓人は、その思いだけで、アクセルを強く踏み込んだ。
***
追憶の回廊から引き上げられた拓人は、新宿から高速道路で立川へ向けて愛車を走らせていた。
(今さっきまで思い返していた時と、同じ道を走ってるよ……)
彼は呆れるように、フッと笑い捨てた。
それにしても……と彼は思う。
(二ヶ月振りに瑠衣ちゃんを見たが…………あんなに痩せて顔面蒼白させて…………しばらく見ない間に……何があったというんだ……)
しかも、彼女が、恋人と思われる男性に付き添われて、尽天堂大学病院へ向かっているのを見た拓人。
(病気……か……?)
尋常ではない瑠衣の痩せ細った姿が、彼の頭から離れない。
(俺が心配しても仕方のない事だけど……彼女には、『先生』がいる。俺は…………彼女の恋を応援するって決めたんだ……)
ステアリングを掴みながらも、拓人は大きく息を吐き出す。
「俺みたいな下衆な男は……本気で女に惚れちゃ…………ダメだったんだよな……」
思わず、本音がポロリと、形のいい唇から零れ落ちる。
瑠衣を好きになってしまった事に対する後悔ではない。
ただ、女を商売道具として見ている拓人には、恋愛をする資格なんてない、と思う。
まだ太陽は高い位置にあるが、容赦なく照りつける陽光に、彼は顔を顰めさせた。
「元気でな……。瑠衣ちゃん……」
最初で最後ともいえる拓人の淡い恋の思い出は、霧のように煙りながら、儚く消えていった。