TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「あんなに良さそうな人なのに……ですか? やっぱり、思い出せないこと自体が、痛みに変わっているのでしょうか」


アルベルトの目は虚空を見つめ続けた。


「分かりません。ですが……この家の中に入ったとき、急に景色が歪んだ気がしました。……現実が、偽物に置き換わるような、そんな感覚です」


そのとき、控えめな、けれどどこか粘り気のあるノック音が響いた。


「お茶ができました。入ってもいいですか?」


コロナリータの声だ。私たちは互いに視線を交わし、私は一つ頷いた。


「どうぞ」


扉が開き、彼女がお盆を持って現れた。


その瞬間、部屋の空気が微かに冷え、密度が増したような気がした。


テーブルにティーセットを並べていく彼女の手つきは、流れるように滑らかだった。


カップに注がれる琥珀色の液体からは、芳醇な香りと共に湯気が立ち上っている。


「熱すぎない温度だと思いますけど……苦手でしたら、言ってくださいね」


彼女の笑顔は親しみやすく、同時に、今にも消えてしまいそうなほど儚げだった。


「ありがとう。いただくわ」


私がカップに手を伸ばすと、アルベルトもゆっくりと姿勢を変え、ダイキリもお茶を受け取る。


「それで……皆さんはどうしてここに?」


コロナリータが、探るような、けれど柔らかな口調で尋ねてきた。


「……貴方、アルベルトのことを兄と呼ぶけれど……今の彼には、過去の記憶が一切無いの。もしかして、故郷であるスラムに行けば、家族に会えば、記憶を取り戻すんじゃないかと思ってここに来たのだけど……」


私は事実を、毒を含ませないように柔らかく伝えた。


「そっか……そうなんですね……」


彼女は、すべてを諦めたような寂しげな微笑みを浮かべた。


「いいんです……私も、昔のことはちょっとしか記憶がないですから。似たもの同士、ということかもしれませんね」


「え、貴方も? 昔って……いつごろの記憶?」


私の追求に、コロナリータは視線を落とし、ぽつりぽつりと語り始めた。


「あれは……確か私が13歳ぐらいのころで……。家で父と母とお兄ちゃんと、家族団欒の食事をしていたときです。突然、知らない男が3人ぐらい、土足で家に入ってきて……」


「『こいつを買い取る』って、お兄ちゃんが連れ去られそうになったんです」

悪役令嬢と悪役令息、地獄行きのディストピア

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

103

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚