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「突然の事で、私は何が起きてるのか、理解もできなくて」
彼女の指先が、カップの縁をなぞる。
「悲鳴をあげた母は、その場でナイフで心臓を一突きされて……。兄と私を守ろうとした父は、幼い私を庇って、銃で撃たれて、その場で……」
「……なるほど。貴方も、凄惨な過去をお持ちのようね。心中お察しするわ」
私が短く返すと、コロナリータは弱々しい愛想笑いを浮かべた。
「その頃の治安は……誘拐されて、どこかで改造される孤児もいるような時代でしたから。私は……まだ、いい方かもしれません」
ダイキリは絶句し、開いた口が塞がらないようだった。その目には同情の涙が溜まっている。
「……でも、そのとき。兄は結局連れていかれて……机の上には、いくらかの小切手が置いていかれて。でも、出ていく直後。その中の1人の男が、私になにかをしたんです」
「なにか?」
「……分かりません。記憶が曖昧で。でも、それ以来……私、自分の名前に、妙な違和感があるんです」
「違和感?」
「そうです、コロナリータって名前が……どこか人工的で、おかしい感じがしませんか?」
ダイキリも、その違和感に即座に同意した。
「分かります……! コロナリータなんて、お酒の名前ぐらいでしか聞いたことないし、すごく珍しい響きの名前ですもん!」
コロナリータの目が、一瞬だけ鋭く曇った。
「それだけが、ずっと引っかかっていることです。……もしかすると、私も兄のように、何かをされていたり、なんて」
「アルベルトのように?」
「あっ、いえ! ……ところで、お兄ちゃん。昔の記憶は、本当に、何一つ思い出せない感じですか?」
コロナリータが不自然に話を切り替え、明るい声でアルベルトに尋ねる。
アルベルトはしばらく、死人のような沈黙を貫いたあと、突き放すような低い声で答えた。
「……記憶がほとんどないもので……。今の貴方の話が真実なら、これは感動の再会なのでしょうが」
「……申し訳ありませんが、どうも、貴方を受け入れられない。……あまり、親しげに此方を見ないで頂けますか」
記憶がないから喜べない。
その理屈は分かる。
だが、それはあまりにも冷酷な、拒絶の意思が剥き出しになった返答だった。
相変わらずの鉄面皮ね、と私が思うよりも先に、ダイキリが身を乗り出した。