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6 - 第3話「予約席・0000番」

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2025年06月25日

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🍽 みりん亭 第3話「予約席・0000番」

「おかしいな……この席、誰が予約入れたんだ……?」


みりん亭の奥。鳥の姿をしたやまひろは、小さな羽でコードログをパタパタとめくっていた。

その丸い体は光の粒で構成されており、ふわふわと空中を漂っている。

普段は無音でログを管理しているが、今日は珍しく目を細めていた。

予約ID:0000

登録時刻:3日前・午前03:11

ユーザー名:未登録




「……誰も来ないだろうな」





暖簾が揺れる音がして、くもいさんが顔を上げた。


「いらっしゃいませ」


入ってきたのは、スーツにネクタイ姿のアバターだった。

グレー系のスーツに、首元に小さなピンバッジ。

髪はきっちりと撫でつけられ、黒縁眼鏡の奥には無表情な瞳があった。

口元だけがほんの少しゆるみ、優しいような、寂しいような雰囲気をまとっている。


「予約していた者です。“0000番”で」


くもいさんは一瞬だけ目を見開いたが、いつものように微笑んで頭を下げる。


「はい。ご案内いたします」





カウンターの端に座る男。

周囲を見回して、「……変わってないな」と一言。


「“昔の味”は、ありますか?」と、くもいさんに尋ねる。


「“そのまま”という料理名ですが、よろしいでしょうか?」


「それでいい。……いや、それがいい。」


くもいさんが調理に入ると、やまひろは厨房の上の棚にとまった。

光る羽毛の鳥は、男の顔を見て、ログを検索するようにまばたきする。





シェルデータ照合:不一致

類似ユーザー記録:10年前、開発テストアカウント「Y_H_0000」

状態:削除済/関連ログ:一部残存

コメント:

// あの時、”やりたかったこと”は、これだったかもな







「“そのまま”、お待たせいたしました」


料理が出された瞬間、男の眼鏡の奥がかすかに揺れる。

それは透明なスープと、少しだけ浮かぶ刻みネギだけの一皿。


何の味もしない――でも、それがいい。


「……君は、まだここにいたんだな」


誰に言ったのか、くもいさんにも、やまひろにも届かなかったその言葉。

彼は一度だけスープを口にし、何も言わず、立ち上がる。





そして、暖簾をくぐる寸前、くもいさんの方を振り返り、ひとこと。


「ありがとう。たぶん、もう来ないよ」





その日、カウンターには誰の残り香もなかった。

でもやまひろは、そっと記録ファイルを1つだけ保存した。

ファイル名:0000_reserved_last

メモ:ここから始めたこと、たぶん、間違ってなかった

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