間もなく研修も最終日となった。
最後の方になって、皆と仲良くなれたので少し寂しい気持ちもあった。
が、これで男達に囲まれる事はもうない。
「今日、杉野くんの誕生日らしいよ??」
と、くしゃっした笑顔が似合う男、新名さんが言った。
新名さん。
同期だが2つ年上で、顔が凄く整っているひと。
女性が好みそうな顔をしている。
「せっかくだし研修終わって、皆でご飯行かない?」
そう提案してきたのは新名さんだった。
まあみんなと仲良くなれたし、あたしは別に行ってもいいかなと思った。
私を含め8名中、5名が行くと答えた。
「じゃあ、このお店に集合で!」
と、新名さんは仕切ってくれた。
「お前、どうする?」
そう話しかけてきたのは山下くんだった。
「なにが?」
「俺1回家に帰るけど」
「え、直接行かないの?」
「シャワー浴びたい。着替えたいし」
山下くんは、会社から10分くらいバスに乗れば家に着くらしい。
「シャワーなんか良いでしょ。汗かいてないし」
「無理」
「はーー一緒に行こうと思ってたのに」
山下くんのことは、相変わらず嫌いだったが
ここまで仲良くしてくれる人はいなかった。
ま、気を遣わなくていいというところもある。
「家来いよ」
え?
家?
「いいの?」
いやいや。
良いのか???
彼女いるよ???
「いいよ」
そんなあっさり、、
まあいいや。山下くんだもん。
むしろ、彼女がいるから何も無いって思えるし。
てか嫌いだし。
「じゃあ行く」
そう言って、私達は研修最終日を終えてバスで山下くんの家に向かった。
「ここ」
バスを降りて、交差点を渡ると直ぐに高いマンションが現れた。
8階だか7階だか、山下くんが押したエレベーターのボタンをあまり見ていなかったから分からないけど
多分そこら辺の階。
「…お邪魔します」
恐る恐る家に入る。
意外とちゃんと片付いてある。。
「じゃ、俺シャワー浴びるんで適当にどうぞ」
そう言ってそそくさお風呂場の方へ入っていった。
私は、目の前にあったテレビを勝手につけアニメを見た。
そっか、今日は金曜日。
なんてぼーっとしながらアニメを見ていた。
そのうち山下くんが来た。
「俺のパンツ」
と言って、洗濯物が畳まれている方向を山下くんが指さした。
「…あっそ」
こいつパンツ見せつけてきた。
あたしは直ぐに目を背け、またアニメを見た。
「そろそろ行くか」
と山下くんが言ったので
「そうだね」
と答えた。
本当に、この人彼女いるんだろうか。
前を歩く山下くんの背中を見ながら、ふとそんな事を思った。
そうだよね、いるんだもんね。
18時という春ではまだ薄暗い空だった。
「ねえ」
「ん?」
山下くんが歩きながら振り向く。
「歩くの速くない?」
どんどん先を行く山下くんに向かってあたしは言った。
「普通だろ」
「いや速いよ」
「お前が遅いだけ」
それから前を歩く山下くんとの距離は段々短くなった。
それから私たち同期は、それぞれ各部署へ配属された。
それっきり、山下くんとは会わなくなった。
特に連絡もしていない。
「おつかれさま!」
「あ、新名さん。お疲れ様です」
新名さんは、タイムカードを切った。
「佐倉さん、なんか小さくない?」
「はい?」
「ちっさ」
また、くしゃっとした笑顔で私を見る。
というか、私の頭?ら辺を見る。
きっと身長のことを言っているに違いない。
「変わんないでしょ」
と、私は笑いながら言ってタイムカードを切った。
「いやいや、全然違うからね」
新名さんはそう言って笑い、最後にまたねと言って会社を出て行った。
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