2019夏
夏は嫌い。
暑いのが嫌いだから。
昔から、太陽だけは苦手で
よく日傘を持ち歩いていた。
そういえば
私には、誰にも言っていない事がある。
というか言ってはいけないこと。
それは
「ありがとうございました〜!」
「がーる、こっちも!」
「了解です!」
副業していること。
というか、学生時代にしていたアルバイトをまだ辞めていないという事。
たまに仕事終わりの金曜日や、土日祝日にアルバイトをしている。
別にお金が無いからとかじゃない。
ただ、このバイトが楽しくて辞めてないだけ。
「がーる終わり!上がって」
「分かりました!お先に失礼いたします」
あ。がーるとは私の事。
呼び名の理由は、私の名前。
今更ながら、私の名前は佐倉 音(さくら おと)。
そして、このバイト先にはもうひとり、音という名前の男がいる。
紛らわしいからと、私はがーると呼ばれ
もうひとりの音くんは、ぼーいと呼ばれる。
バイトも終わり、家に帰りお風呂を済ませ
寝ようとしていた時、電話が鳴りだした。
「こんな時間に誰、、」
なんて思って携帯の画面を見ると、そこには
山下 一 と出ていた。
こいつまた、、
研修後からというもの、深夜に電話がかかってくる所存だ。
めんどくさ。
私は電話に出ることなく、そのまま着信音が切れるのを待った。
それから季節は冬になった。
私は相変わらず忙しかった。
仕事にバイト、ジムにも通い
休みの日もだらだらなんかしていなかった。
仕事も終わり、いつも通りジムで体を動かしていると、電話がかかってきた。
「…」
またか。
言うまでもない。
こいつなに考えてるんだか。
しょっちゅう電話がかかって来る。
しかも必ず夜。
ただ今日は、今日だけは出てあげようと思った。
多分、私の機嫌が良かったから。
「…はい」
何だかんだ、この日電話を受けたのが初めてだった。
「もしもし」
「なに?」
電話口の音が、少しがやがやしていた。
「なにしてる?」
「なにって、今ジムだけど」
「ジムー?」
なんなの。
「酔ってる?」
「今先輩と呑んでる」
「あっそ」
やっぱり。
声のトーンがいつもより少し高かった。
「で、いつ呑みに行くって」
「はい?」
「LINE、してるじゃん」
…そうだった。
LINEでも、よく呑みに誘われていた。
「さあ」
「さあじゃないし」
「…」
「でいつよ」
て言うか私お酒飲まないし。
こいつ分かってて毎度言ってるよね。
「そのうちね」
そう言ってわたしは軽くあしらった。
「じゃあ明日」
「無理」
そんな急な。
てかバイトだし。
バイト無くても行かないけど。
「もー」
酔った勢いで電話してくるなよ。
「もう切るよ」
今ジムだっての!
「はいはーーい」
そう言って、山下くんは渋々電話を切った。
誰が呑みに行くかっての。
何でそんなにあたしと呑みに行きたいんだか。
相変わらず、私は山下くんが嫌いだった。
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