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「兄様!もっと早く走れませぬか!」
「お前をおぶっているのだ、無茶いうな!そもそも、なんで、こんなに重いんだ!」
「あー!これは、衣のせいです!私が重いのではありませんっ!」
「同じことだっ!」
常春《つねはる》は、地面に転がりこみ、腰を打ちつけて動きがままならない、妹をおぶったまま、階《かいだん》を駆け上がり、広縁に登ると、守満《もりみつ》と晴康《はるやす》の後を追った。
どうして、姫君である守恵子《もりえこ》の房《へや》へ、集まらなければならないのか。守満は、兄であるから、ご機嫌伺いという理由付けが出来るが、問題は、赤の他人である晴康だ。
いくら、守満の許しがあるとはいえ、晴康まで、女人《にょにん》、それも姫の房へ立ち入るなど、許される事ではない。
口煩い、家令《しつじ》に、知れたら、大目玉を食らうどころか、守恵子の立場も、危うくなる。昼間から、男子《おのこ》を房に引き入れて、と、有らぬ疑いをかけられてしまうだろう。
すでに、二人の姿は、見えない。今から追っても、到底追い付けないのは、分かっていたが、それでも、急がなければ。
と、いきなり、家令の元で、雑用をこなす家司《しつじほさ》が、現れた。
おや?と、不思議そうに、上野をおぶっている常春を見る。
「あー、妹が、そこの階を踏み外し、足をくじきまして」
「おや、それは、大変ですなぁ」
常春のでまかせを、疑うことなく、家司は信じて去って行く。
すると──。どうしたことか、また、別の家司が現れた。
「兄様!構いません!突っ切っておしまいなさい!これは、晴康殿の仕業です!」
はあ?と、常春は、首を捻るが、晴康の気性は十分過ぎるほど分かっていた。
妹の言うことが、正しい。晴康は、わざと、二人を足どめしているのだ。
「くーー!あの、陰陽師めっ!こざかしい真似をしてっ!」
「よし、このまま、守恵子様の房まで、全速力だ。紗奈、しっかりつかまっていろ!」
何やら、常春も、晴康の仕掛けに、思うところがあったようで、速度をあげて、走り出した。