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妹をおぶって、走り去る常春《つねはる》の姿を、見送る影が二つ──。
柱の後ろに隠れていた守満《もりみつ》と晴康《はるやす》が、クスクス笑いながら、現れた。
「さあ、常春め、どこまでもつかなぁ」
「はてさて。日頃は、書物の虫ですが、意外に常春は、丈夫ですからねぇ」
「それにしても、晴康。あの、術とやらは、便利だねぇ。私にも教えてくれないかい?」
「滅相もございません!あれは、陰陽寮の門外不出のもの。仮にお望みであるなら、それ相応の修行を積んで頂けねばなりません」
そんな、貴重なものを、軽々しく使うお前は何なんだ。と、守満は、呆れ顔で晴康を見る。
「あー!こうしては、おられませんぞ!あの、上野様を背負った常春が、息も絶え絶えで、守恵子《もりえこ》様の処へ転がり込んだら……」
「ハハハ、それはそれで、面白くなるんじゃないかなぁ。今度は、几帳《きちょう》の裏にでも隠れておくかい?」
まったく、と、晴康は息をつく。
「まるで、大納言様のような……」
「あー、それそれ!良く言われるのだよ!父君にそっくりだと。ねぇ、そんなに、似ているかなぁ?私は、そうは、思わないんだけれど?どちらかと言えば、母上に、似ている様な気がするのだけれどなぁ……」
「はあ、まあ、こちらのご夫婦は、どっちもどっち、ですから。守満様の言い分も、半ば、はずれてはいないような。己の事は、案外、分からないものですし」
微妙に言葉を濁す晴康に、守満は、成る程と、頷いた。
確かに──。この能天気具体というべきか、おっとり具合は、どちら似、とも、言いがたい。
「ともかく、守満様、急ぎましょう」
晴康は、守満を急かしながら、心の中で、苦笑った。