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どこそこの中納言家の姫君が、どうの、あそこの参議家の姫君が、あーだと、秋時《あきとき》は、皆の噂によると、と、前置きしながら、一人で喋り続けている。
「全く、良く動く口ですなぁ」
と、呆れ顔の晴康《はるやす》。
「どこで、それほどまでの、噂を仕入れてくるのやら」
「日がな一日、都をほっつき歩いてるんですもの、これぐらい、朝飯前ってことでしょうよ」
と、常春《つねはる》、上野兄妹《きょうだい》は、一種軽蔑の眼差しを秋時へ送っていた。
「あれ?琵琶の音が……」
「まあ、秋時様にも、風情というものがお分かりになるのですね」
几帳の向こうから聞こえた、守恵子の言葉に、一堂は、ぶっ、と吹き出した。
「守ちゃん、その、辛辣毒舌、どうにか、なりませんかねぇ。秋時、心が、折れますわ」
一生折れてろ、と、またまた、一堂は、心の中で思いつつも、妙に長すぎる一曲に、首を傾げる。
「あの騒ぎが、表に漏れては、守満様にも、難が降りかかりますから……」
「晴康?」
言い含み、秋時を見る晴康に、守満は、うん、と、頷く。
ここで、先程の事を話してしまえば、当然、前の男が、ペラペラ喋り尽くしてくれるだろう。あの、ただ者ではない、琵琶法師の事。噂話を聞きつけて、どう、出てくるかは、まだ読めない。
今は、いつも通りに、琵琶法師が屋敷に来ている事にして、先程のことは、黙っておくべきと、晴康は言いたいのだろうと、守満は理解する。
「そう、今日は、私は、夜勤《よいづとめ》明けだからね。琵琶の稽古は、キツイ。だから、お師匠様に、女房達に琵琶を聞かせてもらえないかと、頼んだのだよ」
「ああ、それで、お師匠様は……」
何も知らない、常春が、成る程と納得している。
守満と春康は、顔を見合わせた。常春を納得させる為に、ついた、でまかせではないのだが……。
「あ!琵琶と、言えば!これまた、不思議な事が有りまして!皆様のお知恵を拝借できたら、これ、幸い」
と、何やら、秋時が弾けた。
「不思議な事、ですか?」
几帳の向こう側も、興味津々と、声が高ぶっていた。
「守恵子様。噂話に首を突っ込むなど、はしたないですわよ?」
やんわりと、上野が守恵子をなだめるが、
「そうそう、噂話に首を突っ込めば、突っ込むほど、その楽しいこと!」
秋時が、案の定、守恵子を煽ってくれた。
「ですって!上野!」
「ですからね、それは、秋時が、言うことであって……」
「まあまあ。秋時の話を聞いてみようじゃないか。聞いてから、判断すればいいだろう?本当に、不思議な話か、単なる馬鹿話か」
「守満様!」
「で、とるに足らない話なら、秋時を、タマに喰わせてしまえば良い!」
「あら!兄上、それは、楽しそうですわね!」
ふふふ、と、守恵子が笑っている。
一方、秋時は、蒼白な面持ちで、固まっていた。