「ええっと、何から、話せば。とにかく、奇っ怪な話でして」
秋時《あきとき》は、語り始める──。
それは、とある内大臣家の姫君の身に起こった事だと言う。
左大臣および右大臣の補佐を勤める、内大臣の姫君となれば、近々、入内することが決まっており、屋敷の警備は、いつも以上に厳しくなっていた。
そこへ、ふらち者が現れた。
あろうことか、姫君の許嫁だと、言って、公達が忍びこんだ。いわゆる、夜這いをかけてきたのだ。
「はあ、それはまた、大胆な」
呆れる守満《もりみつ》に、守恵子《もりえこ》が問う。
「兄上?その方は、姫君の許嫁だったのでしょ?もしかして、入内することが決まり、仲を裂かれたのではないのでしょうか?それで、忍んでこられたのでは?」
「あー、もう、守ちゃんったら、なんて、乙女なんでしょう!そうだったら、良かったんだけどねぇ……」
「許嫁なんて、まるっきりの、でまかせだろ?」
「そう、そう、入内が決まった姫君見たさに、お調子者が現れたってわけ」
良くある話と、一堂は、納得していたが、守恵子だけは、さすが、姫君。世の常、特に、男女のそれなど、まだ、縁遠く、そんな事があるのですかと、驚いている。
「うん、そうだねぇ、例えば、守恵子の所へ、秋時が、実は私達は、許嫁なんですよ、と言って、どうでしょう?碁でも、一局いかがですか?って、現れる様なもんかな?」
兄の言葉に、守恵子は、まあ、と、呆れ声をだすと、
「タマや、秋時様を喰っておしまいなさい」
と、忠実なる僕《しもべ》へ命じた。
「あ、あれ!!ちょっと、なんでしょう!なんだか、話がずれてきてますよっ!ちょっ、ちょっと、お待ちなさいよ。まず、話を終えてから、判断って、事だったでしょっ!」
「で?お忍び成立ですか?」
くくくと、笑いながら、晴康《はるやす》が聞く。
「あー!そこ、そこね。肝心のとこなんですけどねぇー、忍んだのは、何様、あれ、ですから……」
はあー、と、秋時は、嘆かわしやと、息をついている。
「……権少将《ごんのしょうしょう》、藤隆《ふじたか》様ですからねぇ……」
「はああ?!あの!!藤隆様!!」
守満、常春《つねはる》、上野が、叫んだ。
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