テラーノベル
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《ナルノ町》
町外れにある一軒のレストラン――
だが、その空気はどう見ても、居酒屋そのものだった。
「マスター! 《タオツー》、もーいっぱーい!」
「……マスターじゃありません。《タオツー》一杯でよろしいですか?」
店員の静かなツッコミを受けながら、魔法使いの少女・ユキはご機嫌で手を挙げる。
見た目は中学生、だが机の上には空になったお酒のコップが、すでに八本ほど。
「…………」
その横で、すっかり机に突っ伏して動かない男――ヒロユキ。
一杯目を飲み干した直後から、すでに戦線離脱していた。
そして彼の腕には、白銀の髪の美少女(見た目)――ジュンパクが絡みついていた。
トロンとした目で、返事のないヒロユキに語りかけている。
「ねぇ、あにきぃ……子供ができたらさぁ、ミーは三人くらい欲しいなぁ……それからねぇ~」
「ジュンパクぅ! 何言ってるんですか! あなた、男ですよ!」
「ユキ姉貴……愛があれば、なんだって叶うんだよぉ……」
「……自分の因果まで変えないでください。
ていうか、もうお酒はいらないんですか?」
「姉貴ぃぃ、勘弁してぇ~。もう五杯も飲んだんだよ?
ミーの頭はクラクラなの~……ほんとはミーがクラクラさせる側なのにぃ~……」
ぐでんぐでんに酔っ払いながら、ジュンパクはヒロユキにスリスリ。
だがヒロユキは――最初から、ピクリとも動かない。
「まったく……まったくっ! こんなこともあろうかと、たまこさんに迎えに来るよう言っておいて正解でしたねっ」
「そう言いながら、ユキの姉貴もけっこう酔ってるじゃない~」
「これは“ほろ酔い”なんですっ。日頃抑えてるリミッターが、ちょっと外れてるだけなんですっ!」
「さすがユキの姉貴……おやすみぃ……」
「あっ、ジュンパク……」
ジュンパクは限界だったのか、その場でくたっと寝息を立てはじめた。
「まったく……二人とも、まだまだですねぇ……」
ひとりになったユキは椅子の背にもたれながら、小さくため息をつく。
「ふーむ、話し相手がいなくなっちゃいました。ユキナも“用事がある”って消えちゃいましたし……」
酔いが回った頭を軽く振りつつ、ユキはキョロキョロと店内を見渡す。
時間はもう二十二時を過ぎていて、客足もまばらになりつつあった。
その中で、ある机に目を止めた瞬間――彼女の目が見開かれる。
そこには、屈強な男たち三人に囲まれるようにして、金髪の大人の女性が二人座っていた。
この町で“金髪”というだけでも目立つ存在だというのに……ユキはそれ以上の理由で、その光景に驚いていた。
「……そ、そんな……どうして……」
思わずこぼれた言葉を、誰も拾う者はいない。
ユキは、ふらつく足を引きずりながら、真っ直ぐその席へと向かっていった。
酒の酔いよりも、“確かめずにはいられない”という想いのほうが、彼女の身体を突き動かしていた。
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