テラーノベル
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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第39話:元社畜による、完璧な「お引き取り」
シロの光学迷彩(という名の物理破壊ビーム)によって500万円のテレビカメラがスクラップと化し、帝都テレビの連中が退散してから数時間後。
俺たちの古民家の縁側は、すっかりいつもの平穏を取り戻していた。
「まぁ、何事もなくてよかったじゃないか。俺たちの平和は、今日も守られたってことだ」
俺は縁側でゴロンと横になり、シロとキツネ兄弟の『トリプルもふもふ団子』に背中を預けた。
先ほど村の入り口で迷っていた車も逃げるように去っていったようだし、今度こそゆっくり昼寝の続きができそうだ。
彼らがもし裏山から不法侵入を試みようものなら、キツネ兄弟とヒグマが展開する『迷いの森』の無限ループに嵌まるだけだ。
――そう高を括っていた、その時だった。
ガサガサッ!! ズザザァッ!!
「……ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」
裏山の鬱蒼とした茂みを掻き分け、庭の芝生の上に、文字通り『這いずって』現れた泥だらけの物体があった。
「ひゃっ!? な、なんですかあれ!?」
小春ちゃんが悲鳴を上げ、シロを抱き寄せる。
俺も驚いて立ち上がった。その泥だらけの物体は、よく見れば人間の形をしていた。
頭に乗せていたはずのサングラスは紛失し、肩に掛けていたブランド物のカーディガンは木の枝に引っ掛けたのか原型を留めないほどにズタズタに引き裂かれている。
高級そうな革靴は片方しかなく、顔には泥と枯れ葉がこびりつき、まるでB級パニック映画の生存者のような凄惨な姿。
数時間前まで、この縁側で威張り散らしていた『帝都テレビ』のディレクターだった。
「お、おい……! 助けてくれ……! 化け物みたいなキツネが……巨大なヒグマが……ずっと追いかけてきて……!」
男はガタガタと全身を震わせながら、俺の足元にすがりつこうとした。
『ミャウ(汚いわね)』
シロが冷たい視線を送り、見えない壁(マイナスイオンの防壁)で男を物理的に弾き返す。
「……ディレクターさん。どうやら裏山で『リング・ワンダリング』を体験されたようですね。で、他のスタッフの皆さんはどうしたんですか?」
俺が冷ややかに尋ねると、男はハッとして、血走った目を剥いた。
「に、逃げやがった……! ループから抜け出せない恐怖で発狂して、俺を置いて、あいつらだけでレンタカーで逃げやがったんだ!」
どうやら、迷いの森の恐怖に耐えきれず、チームは完全に空中分解したらしい。自業自得極まりない。
だが、男の『数字(バズ)』に対する異常な執念だけは、まだ完全に折れてはいなかった。
彼はふらつく足で立ち上がると、小春ちゃんが手に持っているスマートフォン(絶賛配信中)をビシッと指差した。
「お、おい……! そのスマホのデータ、俺に寄越せ! 俺のカメラは壊れた! スタッフにも逃げられた! だが、手ぶらで東京に帰るわけにはいかねぇんだよ!」
「……は?」
「その猫が光った映像でもいい! お前らが細工してる証拠のデータでもいい! 10万……いや、30万出してやるから、そのスマホを今すぐ俺に渡せ!!」
男が、血走った目で狂気を孕みながら、泥だらけの手で小春ちゃんのスマホを奪い取ろうと腕を伸ばした。
「きゃっ!?」
――その瞬間。
俺は、男の手首をガシッと掴んだ。
「……痛っ! な、何すんだてめぇ! 離せ!」
「小春ちゃん。スマホのカメラ、こっちに向けて」
「は、はいっ!」
俺は男の手首を掴んだまま、スマートフォンのレンズ、すなわち250万人の視聴者に向かって、完璧な『営業スマイル』を向けた。
それは、コールセンターのクレーム対応責任者(SV)が、顧客の理不尽な要求が『一線』を越えたと判断し、「共感」から「機械的なルール執行」へとモードを切り替えた時にだけ見せる、絶対零度の表情。
「――帝都テレビのディレクター様。本日は遠路はるばる北海道までお越しいただき、誠にありがとうございます」
「は……?」
突然の丁寧な言葉遣いに、男が呆気にとられる。
「ですが、先ほどから貴方の発言および行動は、著しくコンプライアンスを逸脱しております。まず第一に、未成年である彼女の所有物を強制的に奪おうとする行為は、刑法における『強盗未遂』または『恐喝未遂』に該当する極めて悪質な行為です」
「なっ……! ご、強盗だと!? 俺はテレビ局の人間だぞ! 取材協力の――」
「取材協力には事前の同意が不可欠です。私たちは明確に拒否の意思を示しました」
俺は一歩踏み込み、男を見下ろした。
かつて、理不尽な要求を繰り返す悪質クレーマーを、規約と法律の盾で完封してきた限界社畜の凄みが、全身からオーラとなって立ち上る。
「第二に『肖像権の侵害』。私有地への無断侵入に加え、隠し撮りを目的とした裏山への立ち入り。これは明確な『住居侵入罪』です。放送倫理・番組向上機構(BPO)のガイドラインに照らし合わせても、弁明の余地はありません」
「うっ……!」
「さらに申し上げますと、現在この映像と貴方の発言は、全世界250万人に向けてリアルタイムで生配信され、録画されております」
「……に、250万……?」
男の顔から、一気に血の気が引いた。
「はい。そして、このチャット欄には現在、スイスの銀行家、ドバイの王族、ハリウッドのトップ女優をはじめとする、世界的なVIPの方々が多数滞在しておられます」
俺がスマホの画面を男に見せつける。
そこには、英語、アラビア語、フランス語で、男に対する怒りのコメントと、膨大な額のMeTubeギフトが滝のように流れていた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”Master! Shall I buy out Teito TV right now and fire this monkey!?“(主よ! 今すぐ帝都テレビを買収してこの猿をクビにしようか!?)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000ギフト)=”My legal team is ready to sue him for 10 billion yen! We will destroy his career!“(私の法務チームが100億円で彼を提訴する準備ができている! キャリアを終わらせてやる!)』
「お分かりいただけますでしょうか。もし貴方がこれ以上、私たちの平穏な日常を脅かすのであれば――私たちを支援してくださる皆様が、貴方の会社そのものを法的に、あるいは経済的に『お引き取り』いただくことになります。東京のテレビ局一つ買い取るなど、彼らにとってはポケットマネーですので」
「ひっ……!」
男は腰を抜かし、芝生の上にへたり込んだ。
全国ネットのテレビ局という『虎の威』を借る狐が、真の世界的権力と、一切の隙を与えない論理武装(コンプライアンスの壁)の前に、完全に心をへし折られた瞬間だった。
「……ご理解いただけましたら、もう二度とここには近づかないでください。お帰りはこちらです」
俺は、庭の隅にある『無人販売所』の空き缶(かつてSPたちが100円玉を入れたビスケットの缶)から、100円玉を一枚取り出した。
そして、ガタガタと震える男の泥だらけの手のひらに、チャリンと冷たい硬貨を握らせた。
「村の入り口に、バス停と自動販売機があります。温かい缶コーヒーでも飲んで、落ち着いてから東京へお帰りください」
「あ……あぁ……」
男は、100円玉を握りしめると、ボロボロと情けない涙をこぼし始めた。
そして、何も言わずに立ち上がり、フラフラとした足取りで村の一本道をトボトボと歩き去っていった。
その後ろ姿は、かつての傲慢さなど見る影もなく、ただの哀れな敗北者だった。
「……お兄さん、かっこいいです! まるでドラマの敏腕弁護士みたいでした!」
小春ちゃんが、目をキラキラさせて俺を見上げている。
『主の論破スキルが高すぎるwww』
『元社畜のコンプライアンス・アタック完全決着!!』
『論理武装が完璧すぎて隙が1ミリもない』
『テレビ局のディレクターに100円玉握らせて追い返すの最高すぎるだろww』
『最後の缶コーヒー代、主の慈悲(煽り)が効きすぎてる』
『適応力バグおじさん、法務部より強い説』
配信のチャット欄は、完全勝利のカタルシスに大いに沸き立っていた。
「まぁ、コールセンターじゃ『規約』と『法律』が一番の武器だからな。感情的になったら負けなんだよ」
俺はふぅと一息つき、いつものように縁側へ腰を下ろした。
『ミャウ♪』
シロが、「よくやったわね」とでも言いたげに、俺の膝の上に飛び乗ってくる。コン吉とコン次郎も安心したように足元で丸くなった。
その柔らかい温もりと、真珠色のマイナスイオンを浴びながら、俺は優しく目を閉じた。
世界的なメディアの圧力すら、限界社畜が最前線で培った『完璧な接客スキル』の前には無力である。
俺たちのスローライフは、強固なコンプライアンスと神獣の結界によって完全に守られ、今日も明日も、圧倒的に平穏なまま続いていくのだった。
コメント
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ちょっと待ってその終盤のコンプライアンス完封マジで痺れたんだけど!!?😭💖 裏山這いずって出てきたディレクターへの「強盗未遂」「住居侵入罪」の指摘、しかも最後に100円玉握らせて缶コーヒー代って…!完全なる善意の上から目線で草www しかもドバイの石油王とかスイスの銀行家が視聴者についてるって設定、現実味なくて面白すぎるし、シロたちのマイナスイオン結界がちゃんと守ってるのも尊い〜!! 元社畜の適応力バグ、観てて気持ち良すぎる回だったよぉぉ!!✨