テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第40話:視聴者大喝采。主の防衛力が高すぎる
泥だらけになった帝都テレビのディレクターが、握りしめた100円玉と共にトボトボと村の一本道を去っていく。
その哀れな背中が完全に見えなくなるまで、俺は縁側に立ったまま静かに見送った。
「……よし。完全に撃退したな」
俺が小さく息を吐き出し、いつもの座布団に腰を下ろした、その瞬間だった。
ピロリンッ! ピロリンッ! ピロロロロロロンッ!!!
小春ちゃんが持っているスマートフォンのスピーカーから、システム音のファンファーレが狂ったような勢いで鳴り響き始めた。
「ひゃわっ!? お、お兄さん! チャット欄が、MeTubeギフトの滝がとんでもないことになってます!!」
小春ちゃんが慌ててジンバルを両手で支える。
覗き込むまでもなく、スマートフォンの画面は赤、青、黄色、緑といった高額MeTubeギフトの色で完全に埋め尽くされ、通常のコメントが光の速さでカッ飛んでいた。
『主、最強!!! 最高の防衛戦だった!!!』
『鉄壁の要塞wwwコンプライアンスの絶対防壁!!』
『あのクソディレクターの顔が青ざめていくの、今年一番スカッとしたわ!!』
『法務部より強い限界社畜ww有能すぎるwww』
『俺たちの【日常チャンネル】は誰にも荒らさせない!!』
『主の完璧な営業スマイル、マジで痺れた。一生ついていく!』
250万人の視聴者たちからの、割れんばかりの大喝采。
彼らは、テレビという強大なメディアの権力を笠に着て「聖域」を荒らそうとした不届き者を、俺が『規約と法律と論理』だけで完全に粉砕したことに、爆発的なカタルシスを感じていた。
そして、世界中のVIPたちも黙っていなかった。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト×10連発)=”MASTER! YOUR DEFENSE IS STRONGER THAN DUBAI’S MILITARY! BECOME MY MINISTER OF DEFENSE!“(主よ! 君の防衛力はドバイの軍隊より強固だ! 我が国の防衛大臣になってくれ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト×10連発)=”A perfect logical fortress! Your compliance is tighter than a Swiss bank vault!“(完璧な論理の要塞だ! 君のコンプライアンスはスイス銀行の金庫より堅い!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”You protected our sanctuary! You are my hero!“(私たちの聖域を守ってくれた! あなたは私のヒーローよ!)』
凄まじい勢いで投げ銭が飛び交い、画面上の合計金額がシステムの上限を突破しそうになっている。
「あわわ……! お兄さん、これ、たった数分で家がもう一軒建っちゃうくらいの金額になってますよ……!」
小春ちゃんが震える声で報告してくるが、俺はいつも通り、温かくなったほうじ茶をズズッと啜った。
「皆さま、過分なMeTubeギフトと称賛、ありがとうございます。ですが、私は特別なことは何もしていませんよ」
俺はカメラに向かって、少しだけ苦笑いを浮かべた。
「ブラック企業でコールセンターの責任者(SV)をやっていた頃は、あんなのは日常茶飯事でしたから。理不尽な要求には『感情』ではなく『ファクト(事実)』で対応する。それだけのことです」
『それを涼しい顔でやってのけるのが異常なんだよww』
『元社畜の極意、ここに極まれり』
『テレビ局の圧力に1ミリも屈しない男』
「それに……」
俺は足元に視線を落とした。
俺の膝の上には、先ほど「500万円のテレビカメラを物理的に焼き切る」という神の御業をやってのけた張本人、シロが丸くなっている。
その隣では、ディレクターを「無限ループの迷いの森」に叩き込んだ実行犯であるキツネ兄弟が、シロの尻尾を抱きしめて気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「俺はただ、この平和な時間を邪魔されたくなかっただけですから」
俺のその飾らない一言に、チャット欄の流れがふっと変わった。
笑いや興奮のコメントが収まり、代わりに、温かく、そして深く感謝するような言葉が並び始めたのだ。
『……そうだよな。俺たちも、この平和な時間が見たくて集まってるんだ』
『毎日仕事で怒鳴られて、死にたいって思ってた時に、この配信に救われた』
『主が体を張ってディレクターを追い返してくれた時、ガチで泣きそうになったわ』
『俺たちの心の拠り所を守ってくれて、本当にありがとう、主』
『ずっとこの縁側で、シロ様たちと平和に昼寝しててくれ』
『ありがとう』『ありがとう』『最高の日常をありがとう』
画面を埋め尽くす、世界中からの「ありがとう」の文字。
ただの限界社畜だった俺が、田舎に逃げてきて、猫を拾って、のんびり昼寝をしているだけ。
それだけのことが、いつの間にか、世界中の何百万人という人々の「明日を生きるための癒やし(聖域)」になっていたのだ。
「お兄さん……」
小春ちゃんが、画面を見つめながらポロポロと嬉し涙をこぼしている。
「みんな、お兄さんとシロちゃんたちの生活が、本当に大好きなんですね……。私も、この縁側が世界で一番大好きです」
「……よせよ、柄にもなく照れるじゃないか」
俺は少しだけ目頭が熱くなるのを感じながら、誤魔化すようにシロの背中を撫でた。
『ミャウ♪』
シロが、俺の感情を読み取ったかのように、いつもより少し大きめの音で喉をゴロゴロと鳴らした。
シロの体から放たれる真珠色のマイナスイオンが、俺と小春ちゃん、そしてコン吉とコン次郎を優しく包み込む。
それはきっと、カメラのレンズ越しに、世界中の視聴者の心にも届いているはずだ。
「さぁ、小春ちゃん。邪魔者もいなくなったし、すっかりお茶も冷めちゃったな。新しいの淹れてこようか」
「はいっ! 私、お茶請けにお煎餅持ってきますね!」
小春ちゃんが涙を拭って、太陽のような明るい笑顔を見せた。
どんなに世界が狂騒しようとも、どれだけ莫大な金が動こうとも、テレビ局が攻めてこようとも。
俺たちの「スローライフの防衛線」は絶対に破られない。
秋の陽だまりに包まれた限界集落の縁側で。
最強の防衛力(コンプライアンスと神獣の結界)に守られた俺たちの「終わらない日常」は、今日もポカポカと、最高に幸せな温度で続いていくのだった。
コメント
1件
お兄さんの「ファクトで対応する」姿勢、本当にかっこよかったです…!コンプライアンスの絶対防壁、まさにその通りだと思いました。でも何より、世界中の視聴者さんたちの「ありがとう」の言葉にぐっときました。シロちゃんたちと過ごす何気ない日常が、こんなにも多くの人の心の拠り所になっている。その温かさがじんわり伝わってくる素敵な回でした🌷
ゆうき あきや
3,596
259
#心理描写重視