「でもあんな奴ばっかりじゃない。そう信じてたのに……」
「何故まだ感染者を助けようとする! 俺はもう嫌だ! これ以上、感染者を助けていれば、非感染者も悪影響を受けてしまう!」
ここへ行くのは殺されるようなもの。こうして感染者は非感染者を恨み、非感染者は感染者を呪った。
「どうして信じられるんだ……」
「信じられるんじゃない。信じたいんだよ」
こうしてあのゲームマスターは感染者を助ける……呪いを解く方法を編み出した。お察しのとおりだったのかもしれないが、まさか呪いを解く方法が同じ呪いに感染した人を贄にすることだったなんて。誰も虚しくアイツの餌食になるのは嫌だ。歌華たちにゲームマスターを捕らえてもらっている間に逃げられる場所がないのか探してみた。匂い……音……感触……感覚とは何故こうも記憶を呼び起こすのだろう。花が開いていくように蘇っていく。そういえば初めてゲームを終えてすぐのあそこ。そう。食事……というよりもうゲーム中に倒れないための栄養補給をしていた場所。食べ物があれだけあったということはそれようの出入り口があるかもしれないということ。ビンゴだ。隠し道を見つけた。
「今の内に逃げられるよね?」
気色の悪いことこの上ないが事件の捜査をしていたハズがまさか感染者の命運をかけた戦いにまで発展するとは。皆の元へ急いで出口を伝える。だがゲームマスターがそんなことを許すはずもなく、いつもの看護師が武器を持って迫ってきた。急いで逃げなければ。なんとかゲームで使っていた机や椅子やトランプなどを武器のように使って、抵抗しながら出口を目指していく。ついに外だ。何日ぶりだろう。雨で周りは薄暗くなっている。こんな山の中でそれは結構、死なないかと。少し見渡してみる。せめて何かあれば。ふと少し行ったところに小屋の屋根が微かに見える。小屋の下は崖になっている。逃げ切るのは無理でも時間稼ぎくらいにはなると信じたい。
「幸呼奈。病人……というより感染者たちを見て不思議だと思わなかったか?」
「不思議って?」
ふと茉津李に話しかけられるともうよく見ると後ろからあの看護師たちが迫ってきている。時間稼ぎさえ許されないのか。
「あなたはあの人たちを人間だと思いますか」
「ね? あの人たちは人間じゃないんですよ」
何を言ってるんだ、コイツらは、と思う。戸惑っているうちにトドメを刺す作戦だったのか武器を取り出そうとしている。まずい。ここで皆の前で死ぬのは嫌だ。と思っていたら茉津李が看護師二人にだからなんだという意がこもっているのか返事の代わりのような蹴りを入れた。看護師二人が頭から吹っ飛んでいく。大丈夫か。いや、正直、大丈夫ではない方がこちらはありがたいのだが。
「茉津兄ちゃんつっよ!」
流石、我が家の次男。ところで看護師はどうなったのか。ちゃんと倒せているといいが。言うべき言葉も見つからず、ただ見つめる。そういえばだが人を蹴飛ばしたにしては音があまりに……見てみると体から色々なコードやらなんやらが飛び出している。
「アイツらはロボットだ。えっと……ファミレスの配膳ロボットならぬ……病院の看護師ロボット……」
マジかよと思うが、そうであれば色々と辻褄が合う。なんやかんやで今までのことに辻褄が合う。不安がヒシヒシと全身を包む。全身が凍りついてしまうような寒気。ゾクゾクと鬼気が迫ってくる。松林の中を歩き続ける。最期はやがて皆、同じように倒れていくのだろうか。信じられない。どこに行っても悲惨な死を遂げている自分を想像してしまう。顔をしかめて黙々と歩いている。彼らは生きたいのだろうか、死にたいのだろうか。結局どっちともつかないまま足だけが進んでいく。このままではいずれゲームマスターに追いつかれてしまう。ついに来られてしまった。それでも葉都季は彼(彼女だろうか)の方をしっかりむいて話を始めた。
「「信じる」やっぱり正しい選択だった。正義と言えば、僕はこんな風に考えている。人類の存在そのものを遡る過程……その心そのものが正義だ。君が感染者を助けたいと望んでいたのも、望んでいたからこそ傷ついてしまったことも。どうか幸せに生きてね」
なんやかんやあったが二人はやっとお互いの気持ちを伝え合うことに成功し、雨は上がり、空には虹がかかっていた。そして風卯花と旬が通報しておいてくれた警察も到着し、ゲームマスターと葉都季を突き出して本当にゲームは終了だ。
「あ、あのさぁ……デスゲームに関わるのはもうごめんだけどさぁ……本当はただ人を助けたかっただけだっていうなら……罪を償って更生するっていうなら……それからだったら協力してもいいわよ」
「……え?」
「だからぁ……あんたたちが捕まってる間はあたしがガチで動物にも感染するのかとか呪いのこともっと調べといてあげるってこと」
「……私も」
おぉ……ナイス、歌華、陶瑚!
「じゃあまずは……」
「何で私たちが……まさか渚冬さん!」
「ああ。やったぞ」
「信じてたよ」
「投票やゲームで死なせちゃった人たちは生き返らせておきましたよ」
「幸呼奈ちゃん……」
「これからはみんなで呪いと戦っていきましょう!」
失ったものは戻らない。けれど人の心は変えられる。
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