何を思ったのか、珍しく繁華街を歩いてみようと思った。
ふらふらっと歩いていたら、痛いくらいのネオンの光に惹かれるように、俺は夜の街を歩く。あっちこっちで聞える大人の声に、少しだけびくびくしながら歩く。もう二一だし、何も怖いこと何てない訳で。お酒だって飲んで良いし、タバコだって吸っていい。まあ、飲まないし、吸わないけど。
撮影はあのあとどうなったかは分からないけど、俺は、帰る、もしかしたら近くの店に立ち寄っているかもなんて連絡を入れて、あの場を去った。
ゆず君の演技はみてみたいなあと思ったけど、BL映画、それもあの綺麗なレオ君との演技。あれをみて、平気でいられる自信はなかった。きっと、自信をなくしてしまう。ようやく、ゆず君の隣に立っていても、このままで良いって思えてきているのに、それが逆戻りしてしまうような気がした。
だって、二人とも演技だって分かっているけど、その演技を演技っぽくなくて、本物に近いものにするから。
素人でも、そのすごさが分かる。最近、レオ君の方はCM沢山でているし、そのすごさは分かっていた。スイッチが入れば、あの無表情でお人形のような顔も動くと。確かに、クールさは残っているけれど、それでも、それに+αした何かがついてくる。それが凄いなあと思った。
そんなレオ君とあのゆず君がタッグなんだ、凄いに決まってる。
「はあ……」
自分には到底たどり着けない無縁の世界、そして、今俺がいるこの繁華街も、自分には合わない世界だと自覚している。
ガヤガヤとだんだんと音が大きくなっていくような錯覚をし、俺は、ふらりと、そこら辺のビルの壁に背中を預けた。
ちょっと舞い上がっては、すぐに下落している。
ゆず君の「前向きに検討中」の言葉を聞いて、少し期待してしまった。でも、ゆず君は矢っ張り俺とはすむ世界が違って、俺なんかと釣り合わなくて。自信はなくなるし、そんなゆず君が俺を選んだ理由も、未だに隣に置く理由も分からない。
作品のため、と片付けてしまえばそれまでなんだけど、そう思いたくない自分がいて。
空を見上げれば、深い暗闇が空を覆っている。分厚い雲の隙間から、転々とした星と、三日月が見えた。夜空の明りなんて、地上のごった返した光には負けてしまう。
そんな風に、どよんとした心持ちで空を見上げていれば、ポンと肩を叩かれる。
「紡先輩、こんな所で何してるんですか?」
「ちっ、ちぎり君? え、君こそ、何で」
「僕の家、この通りの向こう側だったりするんですよね。だから、ここ通るんですよ」
と、にこりと笑う後輩、ちぎり君。
何処からやってきたんだと、いつの間に……と、気配もなしに忍び寄られて、肩を叩かれてまだ心臓がバクバクいっている。俺が、全く警戒していなかった(警戒という良い方は可笑しいか)、から気づかなかっただけなんだろうけど。
ちぎり君は、首から一眼レフカメラをぶら下げて、とても学校帰りとは思えない格好で俺を見つめている。
「大学帰り……じゃないよね?」
「そーですね。一回帰ったんですけど、ここら辺で財布落としちゃったみたいで」
「財布!? それって大丈夫なの?」
「スマホはあるので」
「そういう問題じゃないでしょう」
そうですかね、何て全く危機感のないちぎり君は、ケロッとした顔で言った。彼も大概、こんな感じだ。しっかりしているのは、あずゆみ君とレオ君くらいか……
(いや、ちぎり君は不思議な子だけど、あの二人よりもきっとしっかりしている)
レオ君がどうかはらないけれど、あずゆみ君が努力をしている割には、ギリギリの点数をとったり、補充を受けていたりする姿はよく見ていたから。それに比べて、ちぎり君はオール満点。勉強面に関していえば、抜けている所なんて一切無い完璧すぎるちぎり君。なにげに、俺の勉強も口出せるほど優秀なのだ。
「さ、財布……何処で落としたとか。ああ、その中に何が入っているとか、分かる?」
「学生手帳は、スマホに挟んでありますし、まあ現金だけですね。一緒に探してくれるんですか?」
「う、うん……そりゃ、まあ」
「ふふっ……矢っ張り、お人好しですね。先輩」
「いや、普通そうでしょ」
俺がそういえば「普通、ですか?」とちぎり君は返してきた。
(普通、困ってたら、助けるモンじゃないの? それも、財布ってかなり……)
一人より二人で探した方が良いに決まっている。それに、これから夜は深まっていくし、危険が無いとは言い切れないため、二人で行動する方が良いだろうし。
後輩を一人にしておけない、っていう過保護が発動してしまい、俺は「普通はそうだから」ともう一度強く言った。
「じゃあ、一緒に探して貰って良いですか? 『お願い』します。紡先輩」
「……っ」
わざとらしく、そう言ったちぎり君は良い子ぶったように、にこりとした笑顔を俺に向けた。
意図的に、『お願い』といったのを、俺は感じ取って、ゾワッと背筋に嫌なものが走る。
(いや……まさか……ね)
後輩を疑うなんて、悪い、と思って、俺はその考えを全て否定して、ちぎり君の『お願い』を聞くことにした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!