コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
.
角名side
先日のインハイは三位に終わった。
稲荷崎は、鴎台と井闥山に負けてしまったのだ。
でも、三位だからと言って人生からバレーが無くなる訳でもなく、俺らはまたバレー三昧の生活を送っていた。
俺はインハイの後、涙が止まらなかった。
試合に負けたから。
それもあるが、涙の原因の半分以上はインハイで交わした(名前)との会話だった。
しかし、あの日の後も俺は(名前)に連絡出来ずにいた。
インハイで勝ち残っている間は、それだけに集中しようと思っていたから。
いや、それは建前だ。
本音を言うと、ただひたすらに怖かった。
完全に拒絶されてしまったらと思うだけで、体の底から汚いものが飛び出そうになった。
練習終わりの更衣室。
俺は自分のロッカーの前で着替えもせずにスマホと睨めっこをしていた。
(名前)にメッセージを送るためだ。
さっきからずっと、打っては消して打っては消してを繰り返していた。
「…俺、ダッサ」
乾いた声で自分を嘲笑した。
(名前)の気を引こうと思ってした事が、今は自分を悩ませる種になっている。
あんな幼稚な意地悪なんて、しなければ良かった。
[(名前)久しぶり。この間はごめん。]
俺は如何にもテンプレートな文章と謝罪だけを送り、今日は寄り道をせずに寮へと直帰した。
夕飯を食べている時も寝る前も、スマホの通知欄には(名前)の名前は無く、送ったメッセージも既読になっていなかった。
まぁ、それはそうか。
親友でも四ヶ月連絡がなかったら、すぐには気づかないものか。
大丈夫、明日ならきっと返信が来るだろう。
そう自分に言い聞かせてスマホを閉じた。
けれど、俺の考えは甘すぎたと実感した。
次の日の朝、授業間の休み、昼休み、部活頃、寝る前に欠かさずメッセージを確認しても一向に返信がこない。
それどころか既読すら付かない。
俺は何回も追いメッセージをした。
大丈夫か、生きてるか、スマホ壊れたの?、怒ってますか…等。
この行為が相手にとって重いのもダルいのも承知の上だ。
でも、返事が欲しい。
一言でも、一文字でもいい。既読だけでもいいから。
俺は(名前)とのトーク画面を開きっぱなしにして、スマホを閉じた。
「…もう、無理だ」
メッセージを送った日から一週間が経っていた。
いまだに既読すらつかない事に、角名は病んでいた。
「うわぁ、角名の顔ゾンビみたいやん」
更衣室のロッカーに額を当てて落ち込む俺の顔を覗き込んだ治は、そう言いながら引いていた。
「…なんかあったんか」
治は汗拭きシートで体を拭きながら、俺に気を遣ってくれているのか、労いとも取れる疑問を投げかけた。
「…既読がさ、一週間つかないんだ。
インハイで久しぶりに会って、そのまま付き合えると思ったのに。
中学の時、ちゃんと兵庫行くって言ってれば良かった。
あー、戻りたい。あの頃に戻りたい」
額をロッカーにつけたまま、まるで独り言みたいな口調で相談した。
治は制服のシャツのボタンを留めながら、何か思い出した様に声を漏らした。
「あれか、角名が寝ぼけてた時に言ってた…ナントカちゃん、やっけ?その子の事なん?」
「(名前)ね、(名前)。
俺(名前)に嫌われたら本格的にゾンビになりそう。(名前)と話せない人生なんて無い方がマシ…」
「うわ、重っ!激重男やん。角名ってそんな感じやったんやな。
既読つかないなら電話でもしてみればええんちゃう?」
…そうか、電話か。
メッセージばかりに夢中になっていたせいで気づかなかった。
「そっか、そうだよな。
電話なら相手もすぐ分かるし。治天才じゃん」
「お礼は食堂のカツ丼でええよ」
「(名前)と付き合えたらね」
俺は急いで着替えを済ませ、全力疾走で寮へと戻った。
寮に着いてすぐ、荷物を部屋に放り投げて(名前)の連絡先をタップし、電話をかけた。
繋がったら絶対、真っ先に謝ろう。
(名前)が許してくれるまで謝って、それでまた前みたいに。
しかし、聞き慣れた電話の呼び出し音は鳴らず、代わりにツーと言う音が流れた。
「…通話中?」
(名前)が誰かと電話をするのは珍しい。
中学の時も用がある時以外はお互い掛けなかったし、意味の無い電話は嫌いだと言っていたから。
夕飯食べ終わった後にまたかけてみるか。
.