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「……強くはない、けどっ」
光の剣で突き刺せば、悲鳴を上げながら、倒れる狼。身体から、黒い霧が出ているが、まだ、あの肉塊のようにはなっていないようだった。だから、単純に凶暴化した魔物だろう。
三匹なんてあっさり倒せたし、何なら、光の剣なんて、どちらかといえば、魔法というより物理系なので、これで、魔法を分かってくれた? 何て言うのも何かまた違う気がした。
私は、ちらりと、アウローラを見たが、アウローラはニコニコと私の方を見るばかりで、何も言ってくれない。無言の圧力が一番胸にくるんだよなあ……なんて思いながら、私は光の剣を下ろした。
(凶暴化しているだろうけど、本当にここら辺の魔物はそれほど強くない……だから、フィーバス卿の結界が破られたのはもっと違う、やっぱり、あの肉塊……)
思い浮かぶのはあの肉塊だった。だが、ヘウンデウン教は、わざわざ肉塊を放し飼いにするだろうか。いざとなったとき、滅ぼしたい村とかにはなって、その村を壊滅させるとか。そっちの方があり得るのに。
もしかしたら、フィーバス卿を狙っているのかも知れないけれど。強いし、防御魔法に優れたフィーバス卿だからこそ、邪魔だって思われても仕方がないし。結界魔法を破れる魔物にするために改良したのかも知れない。本当に、どれだけの犠牲を払ってこんなこと……
「ステラ様終わりました~」
「一応。ここにいる魔物は全部」
「そーですか」
「何、そのつまらなそうな顔」
「べっつにー、いやあ、雑魚ですねえと思って。ああ、違いますよ。魔物が、です」
と、アウローラはわざとらしくいった。私のことが本当に気にくわないんだろうなというのが伝わってきて嫌だった。まあ、エトワール・ヴィアラッテアが変装したエルよりかは、まだ分かりやすいタイプで対処しやすいからいいけれど。
嫌な感じだなあ、と私はそのモヤモヤは残りつつ、フィーバス辺境伯領周辺を調査することにした。そう言えば、このはなしは、フィーバス卿を通しているのだろうか。また、黙って出ていったら怒られそうだし……と、私は、フィーバス卿の顔を思い浮かべた。ラアル・ギフトとの顔合わせも控えているし、アルベドが戻ってきて、これからの作戦相談もあるし。やることは一杯あるんだけど、すぐには進まなくて、時間ばかり浪費している。このままでは、一向にエトワール・ヴィアラッテアに近づけない。
「ステラ様」
「な、何……えっと、まだ何か文句とか?」
「えー私が、口開いたら文句言うって何でそんな決めつけてくるんですかー酷いですよー」
「ご、ごめん」
「あーあー、謝らないで下さい。令嬢としての格が落ちます。フィーバス辺境伯の名を汚さないで下さいよ」
「……」
「何ですか、私何か間違ったこと言いましたか?」
「その通りだと思って」
「ほへ!?」
うわ、私がびっくりしたとき出す声だ。と自分で何か親近感が湧いて目が丸くなったが、そういうこと。アウローラは、何故かびっくりして、返す言葉もないみたいな顔をして私を見ている。フィーバス卿にも言われたけど、ごめんとか、謝るのはダメだと。気高くあれと。
ぺこぺこ頭を下げるような、そんな態度では舐められてしまうからだろう。それに、フィーバス卿の名を、顔に泥を塗ることにもなる。それは、分かっている。
これまで、令嬢とか、貴族とかそういう枠組みで生きてこなかったからこそ、謝るのって普通だよねと思っていたけれど、この世界では違うのだと。いや、悪いことしたら謝るのは普通なんだけど、でも、自分が悪くないのに、謝るのは、その人の格を下げると。
「ステラ様が、そんな方だとは知りませんでした」
「えっと、どういう意味?」
「田舎育ちの、やんちゃ娘かと」
「や、やんちゃ……あと、田舎って」
「貴族らしくないのは、本当にそうです。それは、ご自身が一番分かってるんじゃないですか?」
と、アウローラはいってきた。グサリと刺さった言葉が抜けなくて、私は引きつった笑みを浮べることしか出来ない。怒ったらダメだと、自分に言い聞かせて、私は頷いた。
「まあ、元々、平民だったから、貴族っぽくないのは、その通りだと思うけど」
「そーですよねー。じゃなきゃ、自分が見下されていて、怒らないわけないですもん」
「……私のこと、滅茶苦茶嫌い何だね」
「さあ」
アウローラは誤魔化すようにいう。さすがに、嫌いと面と向かって言いまくったら気を悪くすると思ったのだろう。いや、もう、既に気が悪いので、何を言っても同じだけど。
「それよりも、アウローラ。ここら辺、静かすぎない?」
「ステラ様が、魔物を刈り尽くしたからじゃないですかー」
「アンタも、魔物倒していたっていってたじゃん。だから、参考までに聞いてるの。こんな感じだった?」
「うーん、だからさっきも話しましたけど、いつもこんな感じですよ。確かに、災厄の影響もあって、かなり魔物は強くなってますけど、辺境伯領周辺の魔物って強いですから」
「なんで?」
「何でって、そりゃ、永遠の魔力を欲して、中央に集まってくるからです。まあ、そんなもの求めなくても、ここ周辺にいれば、地からあふれ出す魔力を吸って、魔物が必然的に強くなるんですけどねえ」
アウローラはぺらぺらと喋ってから、私を見て嗤った。知らない情報だったから、聞いて驚いた。フィーバス卿の呪いと、この地に駆けられている魔力と関係があるのだろう。確かに、モアンさん達の近くにいた魔物とは別格だったけど。それがいるのが普通となっているこの森は、ある意味恐ろしいのではないかと。
(というか、どうやって物資とか運んでるわけ?危なすぎない?)
それなら、この森を通りたくないだろう。いつ襲われるか分かったもんじゃないのに、荷物を運べるわけがないのだ。それに、この土地で、作物が豊富に取れる感じもしないし。後で、フィーバス卿に聞いてみてもいいかもしれない、と私は、振返った。ここら辺の魔物は、倒しきった。でも、辺境伯領周辺を一周できたわけじゃない。いまのところ、肉塊に遭遇もしていないし、もしかしたら、見間違えなのかも知れない。
(でも、見間違いって思えないのが怖いとこ……絶対いるんだろうけど、でも、あれが隠れられる場所ってあるわけ?)
かなり大きいし、何なら、歩くだけで、木々が倒れて、地面が腐るような人工魔物が、見つからないわけがない。もし仮に、魔物に、そういう魔法を掛けてあるのだとしたら、それもまた……
色々考えてみたが、このことはフィーバス卿に報告するべきだと思った。フィーバス卿は、あの肉塊のことを知らない訳だし、情報共有を――
「何!?」
「ステラ様、どうしたんですか?」
「今、何か聞えなかった。ほら、あっちの方で、バサバサって」
「鳥が飛んだだけじゃないですか。驚かさないで下さいよー」
「違う!絶対、あれだ」
「あれって。ちょっと、ステラ様いきなり……ッチ、勝手に行かないで下さいよ!」
私は、アウローラの制止を振り払って走った。
あっちに嫌な魔力の波動を感じたからだ。きっと、肉塊だろうと。じゃなかったとしても、もの凄い魔力を持った奴がここら辺を徘徊しているだけで怖い。いくら、結界魔法が強いといっても、破られたりしたら……
木々をかきわけ、森の奥に進んだら、そこにはやはり、予想通りというべきか、赤黒いグロテスクな肉の塊が動いていた。ゆっくり、もそもそと。肉塊から飛び出しているのは、人の手や、足のようなもの。後は、複数の目と、常にぬめっと地面に落ちる腐敗物。臭いも、これまでであってきた中で一番最悪だった。
「ステラ様、あれ、なんですか」
「報告してくれた奴でしょ」
「あれ、魔物……?」
と、追いついた、アウローラは信じられないというように、肉塊を指さした。肉塊は、こちらに気付くことなく、その場を徘徊している。多分彼奴らに目的なんてないんだろう。
不意を突いて倒す、ということが出来ないのが、この魔物の厄介なところだ。
「アウローラ、お父様に報告してくれる?」
「な、ステラ様、あれに一人で!?やめてくださいよ。ステラ様が死んだら、フランツ様に何て言われるか!」
「でも、あれ、きっと領地の方にむかってる。あれが、普通の魔物に見えないって言うなら、もしかして、結界を破ることが出来るかも知れないでしょ。だから、早くお父様に伝えて」
嘘だった。町の方にむかっているかは定かじゃない。でも、見失うことがないにしろ、あれがこの周辺にいるのは危険だ。さすがに、一体だけだと思いたいけれど……
アウローラは、私の方をちらりとみた。さっきまで、私を煽っていた人とは思えなかった。彼奴の倒し方を知っているのは私だけだし、アウローラを巻き込みたくなかった。だから、この場を――
「……ッ」
私達が、小さな声で揉めたいたのにもかかわらず、あの肉塊は、進行方向を変えた。
まずい、見つかったと、私の頭の中で警報が鳴り響いた。