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第3章 第27話
「因縁開幕」
「バグラド様…あの二人、全然見つからないんだよね。ほら…なんだっけ…ああ。リッパーとアクロウ 」
赤黒い空がゆっくりと脈打つ魔界の城。塔の最上階に近い廊下は、外気よりもなお冷たい。壁には乾いた血が染み付き、足元には黒ずんだ紋様が無数に刻まれている。
包帯の紫の少年、ネクロアは気だるそうに手首をナイフで少しづつ切りながらドア越しに話す。刃先が皮膚を裂くたび、粘ついた血がゆっくり滴り落ち、石床に小さな赤い円を作る。だがネクロアの表情はまるで退屈な作業でもしているかのようだった。
「ほぉほぉ……それはそれはァ 大問題ですねェ……」
低く、湿った声が扉の向こうから返る。重い空気が一瞬で張り詰める。
地面まで届く白い髪。2mを超える巨体。巨大な影が扉の隙間から伸び、廊下をゆっくり覆っていく。ゆらりと揺れる白髪が床を擦る音が、静寂の中に微かに響いた。
「だってバグラド様かなりイラついてたでしょ。あの二人はヴァレンの弟子なんだから」
ネクロアは切った手首を軽く振り、血を壁に弾かせる。紫色の包帯はすでに何重にも巻かれているが、その下の傷は何度も開いては塞がれてきた跡があった。
「そうですねェ……!!特にリッパーは見つけ次第、研究してから八つ裂きにしてあげましょォ」
その言葉と共に、扉の向こうで何かが軋む音がする。怒りというより、期待に満ちた興奮の気配。
「…そろそろ部屋に入るよ」
ネクロアは無造作にドアノブへ手をかける。重厚な扉は重く、内側から冷たい瘴気が流れ出してくる。
ネクロアはドアを開ける。
そこには数え切れないほどの瓶に入った心臓と魔導書、そして呪符があった。棚という棚にガラス瓶が並び、赤黒い液体の中で臓物が揺れている。中には今も微かに脈打つ心臓があり、瓶越しに鼓動が伝わるようだった。床には呪符が敷き詰められ、天井からも垂れ下がっている。部屋全体が呪術陣の中心のような構造をしていた。
「またやってんだ。呪いの研究」
ネクロアは部屋の中央へと足を進める。足元の呪符が僅かに光を放ち、空気がざわりと揺れる。
「当たり前ですよォ!!ワタクシの野望のためですからねェ」
巨大な影がゆっくり振り返る。机の上には解体途中の魔族の腕、そして開かれた魔導書。赤いインクで「双呪」の構造らしき図が描き込まれている。
「正直 気分悪いけどね」
ネクロアは瓶の一つを軽く指で弾く。中の心臓がゆらりと揺れる。
「嫉妬ですかァ?死ねないことへのォ…?」
白い髪の奥から、ねっとりとした笑みが浮かぶ。部屋の空気がさらに重く沈む。
「はぁ…元はと言えばバグラド様のせいで…。まぁいいか。とにかく、アクロウを連れてこればいいんだよね」
ネクロアは壁にもたれ、切った手首を再び舐める。血はすでに止まり始めている。
「そうですよォ アハハァ 楽しみですねェェ…アアアアアアアアアアアア!!!!!」
突如、天井を震わせる狂笑。笑い声は甲高くもなく、低くもなく、ただ“壊れている”音だった。瓶の中の心臓が共鳴するように微かに脈を速める。
この世の終わりのような、純粋な狂人の笑い声は、魔界の闇を一層濃くしていった。
ーーーーー
夕方。
セラフィナの部屋は整理され、無駄がない。机の上には分厚い資料が積まれ、壁には魔術式の簡易図がいくつも貼られている。
「なるほど。それで帰ってきたんだね」
セラフィナがアクラとゼグレに言う。魔族のことを全て正直に話したのだ。アクラは椅子に浅く腰掛け、ゼグレは壁にもたれて腕を組んでいる。
「…で。2種類の魔族の血を摂取したと」
セラフィナの視線は鋭く、しかし冷静だ。
「はい。それが…なんか体がおかしいんです」
アクラは自分の手を見つめる。指先に力を込めると、わずかに空気が震えるような感覚があった。
「おかしいって? 」
「前より…身体能力が高くなったような気がして……」
拳を握る。骨が軋む音が自分でもはっきり聞こえる。
「確かに急に強くなっていた」
ゼグレもフォローする。彼は淡々としているが、その目は観察していた。
「興味深いね。もっときかせて」
セラフィナは椅子に深く座り直し、指先を組む。研究者の顔だった。
ラウンジ。
夜。長椅子、丸テーブル、壁に掛けられた訓練予定表。
「えっ!アクラくん、戻ってきたの!?」
ラウンジにてジャックが叫ぶ。声が天井に反響する。
「そうみたいだねぇ。どんな裏道使ったのやら」
クレイがいつも通り嫌な笑みをする。片足を椅子に乗せ、肘を膝に置いた姿勢。
「良かった!!てっきりもうあのダチには会えないんだと…… 」
少し涙ぐみながらバロロが言う。握り拳がわずかに震えている。
「男のくせに泣かないでください!…気持ちは分かりますけど」
エペが目を逸らしながら言う。
「それで今アクラはどこにいるんだァ?」
光月が鏡で前髪を整えながら言う。光を受けて髪がきらりと光る。
「セラフィナ先生の部屋ですよ…」
ツヴァイがクレイの肩を揉みながら口に出す。クレイに指示されたのだろう。
「部屋に入るのを見たわ。ゼグレさんも一緒だったから、何かあったのよ」
刹那が紅茶を飲みながら言う。湯気がゆらりと揺れ、香りが漂う。
「とにかくはやく帰ってきてほしいのだ…!」
みずきがドーナツ片手に話す。粉砂糖がぽろぽろと床に落ちる。
セラフィナの部屋。
時間はすでに夜を越え、窓の外は薄く明るい。二人はほとんど休んでいない。
「なるほど…そんなことが……」
セラフィナは静かに息を吐く。
「はい。だから血が何か関係してるんだと…」
「それで?その魔族はどこへ?」
「一旦魔界へ帰りました。何かあったらあっちから連絡するみたいです」
「連絡?どうやって? 」
「魔族から石をもらいました。その石が緑に光ったとき、以前いた森へ集合の合図です 」
「…なるほどねぇ。そうだ。結局魔界には行くのかい?ーーバグラドとやらを倒しに」
部屋の空気が少し重くなる。
「……はい。そうするつもりです」
「…そうかい。今日はありがとう。参考になったよ。」
そのセラフィナの一言は部屋から出た。
扉が静かに閉まる音が響く。
廊下。
「はぁ……やっと終わったぁ……」
2人は校舎に夕方に帰り、そのまま寝る暇もなく尋問されていた。窓の外はもう完全に朝。
「もう朝だ」
「わーってるよそれくらい」
アクラは目をこすりながら歩く。ゼグレは相変わらず静かだが、足取りは少し重い。
廊下の窓から差し込む朝日が、長く床に影を落としている。眠気と疲労がまだ身体に残る中、アクラはふと立ち止まる。
アクラはリッパーとアクロウと別れる時のことを思い出す。
赤黒い空の下、森の縁。別れ際の空気は、妙に静かだった。
「覚えておけ。オレの血を摂取した貴様の身体は間違いなく何か変化するだろう」
リッパーは腕の傷を押さえながら言う。その声には、わずかな確信があった。
「は……?体を治癒するだけじゃないのか?」
「貴様、ボルムの血を取り込んだ人間をみてないのか?」
「あ……!」
たしかに。魔族の血を摂取した彼らは暴走してしまった。なのになぜアクラはしない?胸の奥がざわつく。
「おそらく双呪が原因だろうな」
「だよねー僕の血飲んでも平気だったもん!」
アクロウは軽く笑う。
「なに、貴様アクローの血を……!?」
「そんな顔で睨むな!」
リッパーの目が鋭くなる。
「だが貴様たち人間でも双呪の影響で魔族に近づいてるのかもな 」
「ど、どういうことだ!?」
「アクロー」
「うん!」
アクロウは指示を受けると自身の手を少し切り、アクラの傷口に血を注ぐ。赤い雫が肌に触れた瞬間、熱が走る。
一瞬戸惑うも、傷はみるみる回復していく。裂けていた皮膚が閉じ、血が止まる。
「す、すげぇ!!」
「えへへ〜すっごいでしょ〜」
「アクロー オレにも頼む」
「もちろん〜!」
ただでさえ傷の治りが遅いリッパーだったが、アクロウの血により傷口が塞がれていく。裂けた肉が再び繋がり、呼吸が安定していく。
完全には治らないが、肺は正常に機能するようになった。
「だからゼグレの傷が治っていたのか……。でも血とか足りるのか?」
「大丈夫だよ〜僕は魔族の中でもちょっと特別だから!」
「それって属性の話?」
「ううん、個体が珍しいらしい!」
「それがやつら幽灯連がオレらに呪いをかけた理由だ」
森の空気が重くなる。
「ちょっとまて。幽灯連って?」
「バグラド率いる魔界の組織だ。まぁ要するに他人に双呪バラまいて研究するイカれた集団だがな」
「そ、そんな集団におれらは呪われたのかよ……。じゃあその幽灯連ってのがアクロウの血を奪うために双呪にしたってのか?」
「そうだよ〜もともと僕らも幽灯連だったけど逃げてきたの。それもヴァレンがーー」
「アクロー、今その話はよせ」
「あ……うん。ごめんね」
「それで?おれとゼグレはいつ魔界に行けるんだ?」
「早まるな。準備が出来次第だ。アクロー、こいつにあれを渡してくれ」
「はーい!」
そして今に至る。
校舎の廊下を歩きながら、アクラは小さく息を吐く。
「ゼグレ、お前がもっとく?」
ゼグレに例の緑に光る石をみせる。
「身軽でいたい」
「……ノーってことね」
なんとか孤誓隊に戻ってこられた。
今回も魔族の研究のためにセラフィナがアクラを孤誓隊に留めておくことにしたのだ。
だけど今回のは前回みたいにただやられっぱなしじゃなかったって事だ。
もちろん運がいいのもあったけれど。
そして2人はラウンジへ向かう。
扉を開けると、賑やかな空気が一気に流れ込んできた。
そこには孤誓隊の同期全員が座ってくつろいでいた。
「お、おう!」
アクラが部屋に入り左手を上げ挨拶する。
一瞬の沈黙の後ーー
「うおおおお!ダチよぉぉぉ!!!」
バロロが真っ先に抱きついてくる。勢いで椅子がずれる。
「ぐへぇっ…………」
「アクラくんだ!」
ジャックも駆け寄る。
「ゼグレさんもお疲れ様」
刹那がアクラの後ろに隠れてるゼグレに気づく。
「パーティなのだ!光月!今すぐ道具揃えてくるのだ!!」
「げっ……お、オレ様ァ?」
「いいねぇそれ。光月早く行きなよ。元カノの件みんなにばらしちゃうよ?」
「なっ…!ふ、フフっ……ま、まぁしゃあねぇなァ!オレ様の奢りだァ!どっかレストランいくぞォ!」
「10人分ですかぁ!?」
ツヴァイがドン引きする。
「じゃあどの国のレストランにする?」
刹那が聞く。
「やっぱ美食の国 ミネアだろォ!!」
光月が自信たっぷりに言う。
「素材の味が美味しいジェバールは?」
ジャックが様子見で言う。
「ここはガツンと派手なテリアなのだ!」
みずきが両手を広げて言う。
「逆に怪しさMAXのバリエ料理は?」
クレイがニヤついて言う。
みな国の名前を言ったが、あとからわかった話だとみな自国のレストランに連れていこうとしていたらしい。
「思ったんだけどよ、今回は復帰歓迎会だし、こいつら2人に選ばせるべきじゃねーか!?」
バロロが珍しくまともなことを言う。
「た、たしかに……」
エペがはっとする。
「ゼグレ、お前の国は?」
「……氷雪ノ国。不味いからお前が選べ」
「いいのか?じゃあさ…行く?東幻のレストラン」
「もちろんなのだ!」
「楽しみですぅ……」
「東幻ってどこ?」
「これだから男は……アズベルトの南の小さな国ですよ。少しは地理を学んでください!」
「はいはい」
こうして孤誓隊10人で、アクラの故郷、東幻のレストランに行くことになった。
聞き込みによると城下街に店舗は少ないものの、味は確かな店を知っている。
なぜならロイマロから教えてもらったからだ。
ーーとにかく、戻ってこられて本当に良かった。今は心からそう思う。