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静かなる獣、目覚めの音

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静かなる獣、目覚めの音

12 - 第十一章:照らされる存在、見送る背中

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2025年07月22日

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「……今日の撮影、マネージャー同伴でお願いします。外部取材も入るので」
スタッフのその一言に、楽屋の空気がピリッと張り詰めた。


つがい化してから初の、公の現場。


スケジュール表には当たり前のように「キム・ミンジュ(マネージャー)」の名が記載されていたが、

その文字の裏にある意味を、すでに現場は知っていた。


「大丈夫か、ミンジュ」


ナムジュンが心配そうに声をかける。


「平気です。……平気じゃなくても、前に出るって決めましたから。」


ミンジュは静かに微笑んだ。


その表情に、一瞬だけジミンの目が留まった。


彼女の中にある強さと、やさしさと、そして“もう自分が入る隙のない場所”に。



撮影会場に入ると、スタッフの一人が声をかけてきた。


「……あれ、今日ってユリちゃんも入るんだっけ?」


「え? あのSubの──?」


その名前を聞いた瞬間、ミンジュの肩がわずかに反応した。


──ユリ。

かつてジョングクに執着し、彼の周囲をうろついていたBクラスのSub。


「お久しぶりですね、ミンジュさん」


姿を現したユリは、以前とは違う、計算された落ち着きで微笑んだ。


だが、その目は静かに毒を孕んでいた。


「もう“つがい”なんですよね? おめでとうございます。……本当に、“あなた”がグクの隣にふさわしいかは、置いておいて」


「その言い方、どういう──」


「ねぇ、ミンジュさん。あなた、自分が本当に“愛されてる”って思ってるの?」


その一言に、ミンジュは少しだけ目を細めた。


「あなたに言われる筋合いはないわ」


「ふふ、余裕ですね。でも、忘れないでください。つがいって、選べるものじゃない。ただの“偶然”。

本当の愛情は、そこにバースなんて関係ないのよ」


──どこかに、“ジミン”を意識したような言い方だった。


その時だった。


「……やめろよ」


静かで低い声が背後から響いた。


ジョングクがそこにいた。


「ヌナを傷つけるような言葉を吐くなら、Subだろうと関係ない。……ここから、出ていけ」


その瞳には、迷いもためらいもなかった。


ユリは言葉を失い、その場から立ち去った。


ミンジュの手を取ってジョングクが言った。


「ヌナは“ふさわしい”んじゃない。ヌナ“じゃなきゃ”ダメなんです、俺には」


ミンジュの心が、あたたかく満たされた。



撮影後、機材が片付けられる中。

ミンジュが楽屋に戻ると、ジミンがひとり、鏡前にいた。


「……終わったの?」


「うん、今戻ったとこ」


ジミンは立ち上がり、ミンジュのほうへ向き直った。


「ミンジュ」


その呼び方に、彼女は驚く。


いつも“マネージャー”としか呼ばなかった彼が、

初めて名前を呼んだ。


「……ひとつだけ、言っていい?」


「うん」


「俺さ、たぶん……ずっとミンジュのこと、好きだったんだと思う」


一瞬、静寂が落ちる。


「でも、それってDomとしてじゃなかった。

たぶん、同じ目線で、隣に立てるって思ってた。

ミンジュがどれだけ強がってるか、誰よりも近くで見てたから──

俺が“守りたい”んじゃなくて、ただ、“そばにいたい”って、思ってたんだ」


「……」


「でも、俺じゃなかった。

グクが、ミンジュの“つがい”だったんだよね」


ミンジュは、言葉が出なかった。

それでも、彼の気持ちが痛いほど伝わってきた。


「ありがとう、ジミナ。気づかなくて……ごめん」


ジミンは笑った。


「謝らないで。こっちの話だから。

ミンジュが笑っててくれるなら、それでいいって、ほんとに思えるから」


そう言って彼は、すっとミンジュの頭を撫でた。


「もう、ちゃんと忘れるから。

でも……また辛くなったら、俺のとこに来いよ。

“Dom”としてじゃなく、“ジミン”として、ずっと味方だから」



その夜、ミンジュはグクの腕の中で泣いた。


ジミンに傷つけられたわけじゃない。

むしろ、彼の想いの深さに、胸を締めつけられたから。


「……グガ」


「……ヌナ?」


「私、ちゃんとあなたの“つがい”でいられてるかな」


「そんなの、当たり前でしょう」


グクは彼女の額に唇を落とす。


「誰が何と言おうと、ヌナは俺のつがい。

そして、俺の“選択”です」


その言葉が、彼女の胸を強く、あたたかく抱きしめた。


静かなる獣、目覚めの音

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