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「悪いな、ナギ。お前は本来、この依頼には関わってなかったのに」
「大丈夫ですよ。戻る途中に近道しようとこっちに来たんですけど、助けることができてよかった。他に冒険者は?」
「何人か、やられた。連れて行かれたんだが、おそらく……」
そうですか、と悔しい思いがわき上がる。
「でも、お前の動き、剣の使い方、魔法。どれを取ってもDランクじゃないな。ギルマスに言おう。でも、まだ六歳だから無理かもな」
「別に冒険者ランクが僕を決めるわけじゃないので。毎日こつこつやっていきますから、大丈夫」
そうか、と嬉しそうなショルダーさん。
くわぁん! と聞こえれば、その先に大きなオークが二頭歩いている。ドスンドスンと音が聞こえるんだ。
「あれはジェネラルと、副官だろうな。ここでやるか」
そうですね、とフラットから降りた。
フラットも頼むね、と言えば、くわぁん! とザザッと駆け出した。後ろから、一頭の首元に噛みついた。
俺とショルダーさんも駆け出す。つい、俊足を使ってしまった。でなきゃ、フラットが隣のやつにやられるから。
予想通り、フラットに腕を突き出したから、そのまま肩の少し下あたりで腕を切り離す。
ぶもぅぅぅぅぅぅ~
と腕を押さえて俺を睨む。それがどうしたんだよ。お前は悪いことをしただろうが!
どうやら声に出てたみたいで、ショルダーさんが驚いてこっちを見た。あははは、と笑いながらフラットを見れば、一度離れて、今度は太ももに傷をつけて一度引くという戦い方をしている。的確に出血の多い場所を狙ってるね。すごいよ、フラット。
ショルダーさんは、俺が腕を切ったオークの反対の腕を狙っているようだ。それなら、と俺はオークの後ろに回って、膝裏を引き裂いた。後はショルダーさんにお任せだ。
フラットに視線を送れば、腕を引きちぎって戻って来た。
よくやったね、と笑顔で言えば、その腕を咥えて後に下がって行った。あはは、食事だね。
じゃあ、後は任せて!
ぶもうぶもうと痛がるオークだけど、デカいくせに痛がりすぎ。
反対側の腕を落とすと見せかけて、太ももを切り裂く。そして反対側も同じだ。
正面から戦うのは身体が小さい分不利だけど、フラットがいろんな箇所を傷つけているから出血はかなりある。そのうち、出血多量だね。
腕を抱えて痛がるオークの膝を踏み台に飛びあがった。そして反対側の腕を切り裂いた後、肩に乗っかる。どこにいったのかと俺を探すオークの首にショートソードを押し当てて、一気に引けばブシューッと血が吹き上がった。
うん、これで終わりだね、とドドドンと倒れたオークからおりれば、かなりの大きさだったと驚いた。そんな俺を見て、苦笑するのはショルダーさんだ。なんでだろうね。
アイテムボックスに入れてくれと言われて、回収する。
集落に行かなくていいのかと聞いたけど、どうするかと悩んでいるようだ。
食事が終わったフラットが戻って来たので、どのあたりかと聞けば、すぐ先だ。
じゃあ、もう一度乗せてくれる? と問えば、喜んで乗せてくれたんだ。当然、フラットと俺たちにはクリーンをかけたよ、だって、赤い人と赤い狼だったもの。
すぐ到着した集落は酷いものだ。
掘っ立て小屋が建っているんだけど、その中に冒険者と思われる遺体がある。ギルドカードを探して持ち帰ることになった。他は見られたものじゃないから。
ショルダーさんは数人のギルドカードを手にして確認してから、本当は建物をもやすんだが、と口を閉ざす。
それなら、魔法でやりますよと言えば、頼むと言ったので、魔法で瓦礫を集め、それに火をつけた。
一気に燃え上がるようにと強い炎を作った。
<烈火>
ゴウッと燃え上がった木片と遺体は、強い炎に包まれる。
そして、十分ほどで燃え尽きた。
しっかりと手を合わせて、俺たちはフラットの背に乗る。そして皆の待つ場所へ一気に駆けた。
「ショルダー!」
声をかけてきたのは、見たことのある人だ。
「無事でよかった。ナギくんも、フラットも」
「ああ。ナギたちに助けられた。本当に助かったよ、ナギ、フラット」
えへへ、と頭をかいていれば、フラットがふわぅん、と照れた笑いをした。
じゃあ、戻るかなと合流して馬車に乗る。俺はフラットの背に乗って、馬車に合わせて進んだ。
ギルドに戻った時、全員にクリーンをかけてから中に入った。
「おう! 戻ったか。待ってたぞ。で、なんでナギがいる?」
「採取してから近道するつもりで草原に来たらしい。そこで俺たちが戦っているのを見たってことだ。正直、ナギとフラットが来てくれなかったら、全滅だったと思う」
嘘だろ? とギルマスの目はまん丸だ。
「本当です。俺たちはナギに治療してもらって、フラットに守ってもらってました。残りの二頭を狩りに行くとナギとショルダーが言うから、フラットと入れ替わった。フラットはナギとショルダーを乗せて奥に向かったんだ」
ギルド内は騒然とし始める。
「私たちもです。皆、ナギくんの治療がなければ死んでいたし、逃げることもできなかった。強いですよ、ナギくん。はじめて見たけど、驚きました。鮮やかなものです」
次々と証言が出るので、ギルマスも理解したみたい。
「ふぅ。わかった。まあ、ナギが強いのは知ってたけど、それほどとはな。で、残りは?」
ショルダーさんがギルドカードを差し出す。集落に行って確認したこと。遺体は回収できる状態じゃなかったこと。集落は俺の魔法で瓦礫を集めて強い炎で焼いたことなどを報告した。
「そうか。残念だ。だが、他の皆はよく無事で戻った。ナギもフラットもありがとうな。とんだ薬草採取になったな」
あははは、と苦笑するけど、獲物はどうしたらいいのかな。
手招きされて、素材解体場へと向かう。そしていつものようにオークを取り出した。
「あの。僕が狩ってた魔物もあるんですけど。一緒に出さない方がいいですか?」
何がいる、と聞かれてアイテムボックスのリストで確認すれば、サンドウルフとサンドクラブ、サンドタランチュラと出ている。それをそのまま伝えれば、おじさんはひっくり返りそうになっていた。
「お前の獲物は、そのまま持っててくれ。今日は無理だ。オークの事はギルマスと相談する。一応、討伐依頼として出てたからな」
はい、と笑顔でその場を辞した。
「じゃあ、ナギさん。薬草採取は?」
「ありますよ。籠、ください」
そういえば、こちらへと案内された。倉庫の隣りにある小部屋だ。
大きな籠だけど多分たりない。もう一個、と追加してもらう間に、コーリンの実をアイテムボックスから籠に移した。予想通り入りきらない。これ、と渡されたのは、さっきのより大きい籠だ。これなら入るかな、とそっと入れてゆく。
何とか収まったので、安堵した。
でも、今から鑑定するのかなぁ。
「あの、ナギさん。悪いんだけど、薬草採取の鑑定結果は明日でいいかな。今日できたら今日知らせるわ。いろいろ立て込んでて」
「いいですよ、明日で。討伐の方を優先してください」
悪いわね、と謝るので、とんでもない、と手を振って食堂に向かった。
「ナギさん、戻りました~」といつもの声が聞こえる。
そして出してもらった水を二杯お代わりした。当然、フラットもお代わりだ。
山盛りのワンプレートと、焼いてもらったステーキを何枚も皿に盛ったものがおかれて、俺とフラットは超ご機嫌だ。
いただきます、と二人で食事をはじめた。
ギルマスは、戻った冒険者たちに話しを聞いているようだ。でも、俺は助っ人だから関係ないし。
パクパクと食べてゆく俺の隣で、フラットはガツガツステーキを平らげてゆく。二人の爆食いは、食堂では見慣れたものなんだろう。皆、驚きもしない。
楽しい食事をゆっくりととってから、礼を言って階段を上がる。
今日は少々疲れたね、とフラットを労えば、嬉しそうに頭を押しつけてくる。
部屋に入って、まず用を足すフラットだけど、トイレはすぐにクリーンできれいにしておく。これを忘れると部屋中臭い。
もう一度、フラットと一緒にクリーンをかけて、服を脱いだ。きれいになったんだけど、今日こそはパジャマで寝たい。そう、リラックスウエアで寝る!
帯剣ベルトごとアイテムボックスに入れて、服を脱ぐ。そしてパジャマを取りだし、頭からすっぽりかぶった。
先にベッドに転がっているフラットの腹にもたれるように背を預ければ、一瞬で眠ってしまった。
ん? もう朝かな。
ふぁさっと身体に被さっているのはフラットの尻尾だ。
俺、毛布蹴飛ばしちゃったんだな。
おはよう、とフラットを撫でて起き上がる。
今、午前七時ころだ。
今日は少しゆっくり起きた。わざとだ。
少し疲れていたのはあるんだけど、身体は全く問題なく回復している。
でも、少しゆっくりしたかったのだ。最近は休みを取ってもいないから。なぜかと言えば、依頼があるのもだけど、家にする場所が決まったら、数日は改装に費やしたかったから。
でも、朝になれば腹が減る。
「お腹すいたね。食事に行くか?」
ふぁふっと答えるフラットに少し待ってもらって、着替えをした。帯剣して、二人で一階に降りてゆく。
なんだか、昨日と違って、今日のギルドは少ない気がする。
まあ、有名パーティー三つ来てないんだから仕方がないね。
「おはようございます、ナギさん。昨日の鑑定が終わってますので、朝食が終わったら声をかけてくださいね」
はい、とフラットと食事を取りに向かった。
食事が終わり、一度外に出てパン屋に立ち寄る。そして、いつものようにサンドイッチとホットドッグをそれぞれ数本ずつ買ってアイテムボックスへ入れた。
再びギルドに入ってカウンターで声をかければ、ギルマスの部屋でと言われた。今度ばかりは怒られるかもしれない、と覚悟を決めて階段を上がった。当然のようにフラットも付いてくる。
ドアをノックすれば、入れと聞こえる。
そっとドアを開けて、中に入った。
おはようございます、と言えば、おはようと返ってくる。あれ? 普通だけど?
「待たせたな。昨日は疲れただろう。世話になった。お前のおかげで、あれだけの冒険者が助かったんだ。礼を言う、ありがとう!」
そう言われて戸惑う。なぜ怒られないんだろう。俺は普通なら入るべきでない場所に入ったのに。
「昨日、お前が森に入ったのは、皆に力を貸すためと救助のためだ。怒られると覚悟してきたんだろ?」
はぁ~、よかったぁ。
「ふふふ。悪かったな。昨日のことは全部聞いた。お前の活躍は詳細に聞いたが、感心するしかない。お前がずっとここで活躍してくれると嬉しいがな。でも、大人になったら自由だ。だからいろんな場所を見に行けばいい。でも戻ってくるところはここだからな」
涙が出そうなことを言ってくれる。でも、ここで泣いちゃ恥ずかしすぎる。
グッと堪えてニッと笑って見せた。
「それでな、昨日お前が狩ったオークだが、全てお前のものだと皆が言う。ショルダーも、トドメを刺すだけになった所にトドメを刺したんだと聞いた。だから全部お前の獲物だ。皆には討伐依頼に参加してくれて、最後まで頑張ったから依頼料は普通に支払った。だから気にせずもらっとけ」
「で、でも。僕は助けに入っただけで……」
「現実はそうじゃない。冒険者はそれが普通だ。お前は横入りしたわけでもなく、救助の手段として魔物を狩った。正当だ!」
あはは、こうなるのね。
仕方がないので、わかったと納得した。
「それで、お前が昨日狩ったサンドウルフや他のやつ。今朝出してくれるか。オークの肉は、いつでもお前に出せるけど、好きなだけおっさんに言え。そのあと精算する。で、サンドクラブとかサンドタランチュラが出てきたのか。あのあたりも変わった魔物が出てきたな」
そうなんだ。当たり前なのかと思った。
「失礼します。薬草採取の精算を」
お姉さんが入って来た。
「ナギさん、たくさんの納品、ありがとうございます。とても助かると依頼人が上乗せしてくれましたよ。詳細はこの紙に書いてありますが、高級品なのでかなりの金額かと。総数が五百二十個です。傷の入ったものは入れていません。最上級のものでした。十個で金貨一枚ですから、金貨五十二枚です。あと、上乗せ分が金貨三枚ですね。傷物はどうしますか?」
「あれはどうやって身体に入れるんですか? 難しい?」
そうですね、と教えてくれた。
錬成してからの扱いになるらしい。すぐに傷も治る、回復もするという代物で、ポーションにも飲み薬にもるんだそうだ。
普通に食べるんじゃないんだな。じゃあ、無理だね。
「多少の傷があるものが二十三個あります。よければ、地元の薬師に下ろしてもいいですが」
それがいいかもしれない。
じゃあ、お願いすることにした。
それなら、買取金額はアップする。ギルド価格らしいので、金貨一枚と銀貨三枚小銀貨八枚だと聞いた。これは嬉しいな、と頷いて、それぞれの明細とお金をもらった。
アイテムボックスに入れれば、ギルマスがおっさんのところへ行くぞ、と立ち上がるので後をついて行しかないでしょうよ。