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創作 。

11 - 『名前を呼ばれるまで』

♥

85

2025年12月27日

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『名前を呼ばれるまで』






一目惚れだった。


生まれて初めて、理由の説明できない恋。




誰もが振り返るほどの整った顔、

というわけじゃない。




だけど、その人には不思議な引力があった。



無駄のない仕草。


どこか遠くを見ているような、

落ち着いた眼差し。




教室に溶け込みながら、

決して同じ色にはならない、透明な違和感。



授業中はいつも眠そうなのに、

ノートは整っていて、成績は上位。




友達といる時は柔らかく笑うのに、

その先では、ぼんやりと空気に溶けてしまう。



__一人が平気そうで、


__でもきっと、



誰かがいないと不安になる人。


作り笑いを顔に貼り付けている彼と、


本心を隠して生きている私。



正反対なのに、どこか似ている気がしていた。





「一ノ瀬くんと話してみたいなぁ」





何度も口に出しかけて、飲み込んだ言葉。





「話しかければいいじゃん」





そう言われても、足は動かなかった。



失恋するくらいなら、


遠くから眺めるだけの恋でいい。





それで十分だと、思っていた。








「……伊織さん」






その声に、心臓が一拍遅れて跳ねた。


部活中の友達を待つ、夕方の教室。



一ノ瀬くんが、静かに入ってくる。





「今日回収の数学のプリントなんだけど……伊織さんだけ出てなくて」





「あ、……ごめんね」





視線を落とした先には、


ほとんど白紙のプリント。



終わった、と思った。




でも__





「……はは、俺の見る?」





少し困ったように、


でも優しく、

彼は笑った。



眉を下げて、控えめに開く口元。



友達と話す時と同じ、あの笑顔。


胸の奥で、何かが静かに弾けた。





「じゃあ、出してくるね」





「プリント、ありがとう」



「……うん」





それだけの会話。


友達にもなれていない、ほんの数分。






なのに__



教室を出ていく彼の足音が消えた瞬間、


私は一人で、小さく跳ねた。



あの笑顔を見たのは、私だけ。



そう思うだけで、世界が少し、明るくなる。


今はまだ、名前を呼ばれただけ。



それでいい。


もう一度、あの笑顔を見られるように。



それだけを目標に、頑張ろう。





透明な恋は、
まだ始まったばかりだった。

この作品はいかがでしたか?

85

コメント

4

ユーザー

目の保養すぎるて(?)

ユーザー

一目惚れって素敵だよね💭🎀

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