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とうとう、我慢の限界がきたのだろう。我が妹が「うがー!!」と叫んでは、勢いよく立ち上がる。
「イオだけズルーい! ヒナも調べたい! 調べたい! 調べたーいー!!」
駄々っ子のようにジタバタと暴れ出す妹に、俺はため息をつく。
「そうは言ってもなぁ……人のものは勝手に触っちゃダメだって、ばっちゃが言ってただろ?」
「確かにおばあちゃんは言ってたけど!」
「じゃあ大人しく、二人の会話が終わるのを待つぞ」
「いやいや、あれは一夜を共にする流れだよ!」
妹の思わぬ発言に、俺と一織は驚きのあまり固まる。
思考がフリーズした状態からいち早く再起動したのは、意外にも伊織だった。
「ちょ……ちょちょちょっ、ヒナ……!? そっ、そそそ、それ……意味を理解してる上で、いいい、言ってるんですか!?」
動揺のあまり赤面した伊織は、言葉も発音もめちゃくちゃに乱しながら、反射的に妹へと問い詰める。
そんな伊織の問いに、俺も内心で同様に動揺しながら、全力で首を縦に振って同意する。
「もっちろん! 意味はわかるよ!」
まって、まって、まった。伊織が俺に対して、ものすごく不審且つ、見たことないくらい凄まじい軽蔑の目を向けてきた。が、それに関しては本当に無実なので、俺は本体の首を横に振って、全力で否定した。
(いやいやいや、なん……なんで!? お兄ちゃんは『そっち系』に関するものは、一切家に置いてないよね!?)
神崎家は妹のために、健全な教育方針を目指している。ので、そちらに関するものは一切置いてない。
まぁ、昔そういうちょーっとお年頃な時期も、俺にもなくにはなかった……が。正直、青春は全てオタクライフ注いだ。欲しいゲームや本のため、小遣い稼ぎのために放課後や休みの日はほぼバイト。そしてバイトで稼いだ金はゲームや本、公式へのお布施として消えていった。
いやまぁ、たまーに……たまに、ね? 友達の家に行った時に、そういうのをチラッと見たりはしたが……そもそも俺の友人関係のほとんどがオタクゆえに、そういったものに興味があるヤツが少なかった。強いて言うならば、俺らの学生時代のメンツで割とそっち系に興味を持っていた……と言うか、比較的一般的な男子学生の思考を持つ部類の人物は吉田くらいだ!
でも普通に吉田は良いヤツだし……なんなら一癖、二癖……どころじゃない俺の中・高時代のダチにも分け隔てなく接してたし、女子にも人気あったし。そのせいで一部の野郎共に妬まれることもあったが、そんなヤツらも気づいたら吉田の包容力によって虜になっていた。
そもそも、吉田は下世話な話とか人の前ではしない。ましてや、ウチの妹の前では男女の話は極力しなかった。何より、小学校からの付き合いの俺が言うんだ、間違いない! ……はず。ちょっと自信ないけど。
いや、だってよ? 俺の知らないライスタ垢で、妹と繋がってたのよ? 後に聞いた、妹曰く。俺が『丁度仕事の繁忙期の社畜ピークで仕事とゲームのログイン以外、まともにスマホを開かない』上に、吉田が機種変した際に『旧ライスタのアカウントにログインできなくなったために、新しくアカウントを作り直したが俺と連絡がつかなかったために起きた事故』だったとのこと。
……ちなみに。俺に連絡がつかなかったため、わざわざ家まで来てくれたらしい。だが、吉田が来たという日、俺は元々休みだったが、急遽クソ上司によって会社に呼び出されたがために、吉田に会うことはなく……家に引きこもっている妹の『気まぐれ』と『久々に会う吉田』ということで対応したとのこと。
さらに、オマケをつけると。帰ってきた俺の『生きる屍のような姿』が、あまりにもショッキングすぎたことで、『久々に吉田に会ったこと』と『新しいライスタ垢を俺に報告する』という任務が『完全に吹き飛んだ』というオチまであるときた。
ではなぜ、この天真爛漫で図太いトラブルメーカーの妹が『ショッキングすぎて完全に吹き飛んだ』ということになったのか。
その昔……妹がまだ保育園に通っていた頃の話。妹がお昼寝タイムで、親が不在の際に起きた事件がある。
当時は世間の地上波の規制も今ほど厳しくなく、間違いか何かでたまたま録画されていた『生物災害』を冠する某ゲームを元にしたアクションホラー映画を、俺がポテチとコーラを片手に何気なく鑑賞していた時のこと。なんと絶妙なタイミングか……みんなのトラウマシーンでまさかの妹が起き、幼き妹に盛大なトラウマを植え付けてしまった。
さすがに弁解の余地もなかったので、両親にこってり絞られた後、鑑賞途中だった録画されていた映像はそのまま消された。
そして時は流れ……規制対象の年齢を超えた俺は、満を持してウキウキで原作をプレイした。そんな時だった。
また何の因果だろうか……俺が操作をミスしてクリーチャーにフルボッコされてるところで、運悪く部屋に入ってきた妹にさらなるトラウマを植え付けたのだ。
一度目はアレだったが、二度目は妹の自業自得なところもある気はする……が。これ以上、同タイトルであるこの作品や、同系統の作品でトラウマを植え付けるわけにもいかない! ので、妹には『絶対に触ってはいけないお前のトラウマシリーズ』と、注意書きをた上で箱分け。さらに鑑賞やプレイ中には部屋のドアに『SAN値削られたくなくば、開けるべからず』という手書きのプレートを下げて回避させる始末。
今のところ問題はないが、ここまでして自らトラウマ作りにきたら、さすがにどうしようもないので俺は諦める。自衛する方法を、自分で考えてくれ……。
……なんて、裏話はどうでもいい。
動揺してる俺は「吉田? 吉田のせいか……!?」と、吉田にあらぬ疑いをかけてしまう。スマン。許せ、吉田。
「いやぁ、分かるよ。熱中すると、つい……ね!」
「『つい』!? そんなに軽いの!?」
「そりゃあ、流れとかあるでしょ?」
「あるのか!?」
腕を組みながらそう発する妹に、俺と伊織はさらに動揺する。
「分かります! 僕も気づいたら、よくやってました!」
「「えぇっ!?」」
そんな俺たちとは裏腹に、何故か妹に同意したのはセージだった。
「えー! セージさんもー!?」
妹は同意してくれたセージと、小さくハイタッチをしてキャッキャとはしゃぎだす。
「はい。小さい頃はよくやって、ロキに怒られましたが……今ではなんだかんだ言っても、結局は付き合ってくれるんですよ」
「あー! それ、前にロキロキに聞いたかも〜。やっぱり、ロキロキは優しいね♪」
「はい! ロキはとっても優しいです♪」
まさかの二人の発言に、俺と伊織の思考はついていけない。
「私もね〜、ヒロくんとたまにやるんだ〜♪」
「お二人とも、本当に仲がよろしいですね♪」
妹の一言に、伊織が再び見た事のない表情で俺を見てくるので、俺は再度、全力で首を横に振る。違う違う、俺は断じてそんなことはしない。周りからシスコンと言われてるが、そんな顔で俺を見るな!
「昔はたまにイオとも一緒にやってたけど、最近は全然ないね〜」
「わぁ、そうなんですね!」
その言葉を聞いて、思わず殺気に満ちた目で伊織を見る。伊織は顔を真っ青にして、首を横に振っているが……何? 君ら俺の知らないところで、いつの間にかそういう関係だったの?
俺は基本、他人の恋路には関与しない質だが……伊織くん、ちょっとあとでお兄さんと詳しくお話しようか?
「やっぱり楽しいよね〜、朝までおしゃべり!」
「はい! お泊まりしながら、一緒に朝までおしゃべりするのは楽しいですよね!!」
妹とセージは、楽しそうに「「ね〜♪」」と声をハモらせている。
そんな二人に、俺と伊織は……。
「………………は?」
「おしゃ……べり……?」
なんともまぁ、間抜けな声を出すしかなかった。
俺と伊織の間抜けな声に気づいてか、妹が頬を膨らませながら不満の言葉を漏らす。
「そうだよ! 最近イオは全然泊まってくれないし、ヒロくんは社畜三昧で徹夜するとゾンビよりゾンビみたいな顔するじゃん!! 二人とも、昔みたいに朝までおしゃべりしてくれないじゃん!!」
「いや……お前みたいにほぼほぼ年中引きこもってないし、社畜三昧で完徹はちょっと……ってか、正直マジでキツイって」
「さすがに高校生になって、ヤヒロさん以外の保護者が居ない異性のいるところに泊まるのはちょっと……というか、私も一応、健全な男子高生なので……」
伊織の最後の言葉は、かなり声が小さかったが……俺にははっきりと聞こえた。そりゃそうだ。只の幼なじみだと思ってるのは妹だけだし、伊織は偉い、マジで偉いよ。お兄さんは知ってるよ、君の頑張りを。
「えーっと……イオのお泊まりの件については、今は……というか、願わくば一生置いといて。今は大丈夫だろうが、徹夜は健康に悪いから、ほどほどにしとけ。ホント、マジで」
社畜の俺から言わせると、徹夜はマジで辛い。次の日に響く。社会に出てから気づく、睡眠の大切さ。
先人の『若ければなんとかなる』は迷信だ。どんなに若くても、辛いものは辛い。何より睡眠の質は健康的にも、精神的にも影響を及ぼす。『寝れる時は寝ろ。推しは推せる時に押せ』。これは数ヶ月前に突然飛んだ……俺よりも地獄のような社畜ライフを経験していた、面構えの違う先輩の言葉だ。言葉の重みが、まるで違う。
とりあえず、俺は一つだけ確信したことがある。
(そうだ……今度、茶でもくみ交わしながら、伊織とじっくりと話をしよう)
本当……『何かあってから』では遅いのだ。
俺は伊織と、今後について『じっくりと話をすること』を、心の底から決意した。