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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 ハロー、ハロー、諸君。 今日の天気は、朝から快晴! こんな日はさ、ついつい遠くまでお出かけしたくなるよな。そう、いっそうのこと街の外にいるキミーと一緒に、みんなでピクニックなんでどうよ?

 俺の治療のせいでこの一週間、全然会えてなかったからな。久々に会いたいし、キミーの可愛さに癒されたいという意味も込めて、みんなでキミーに会いに行こう!


 そうだ、そうしよう。


 最初は見た目に戸惑うだろうが……キミーはもう、それはそれはすごくいい子だ。気が弱くて、大人しくて、すごくすごーく優しい子。

 俺の中でのキミーは、今や立派な癒し枠。この世界の、マスコット的ポジションだ。


 本当に、マジで。みんな好きになっちゃう。


 だからさ、みんなでキミーに癒されよう? な? キミーはいいぞ? マジで推せる。


 嗚呼、キミー……俺は冗談抜きで、お前に今すぐにでも会いたい。会いに行きたい。


 こんなにも、お前に会いたいだなんて……。


 どれくらい会いたいか、俺のこれまでの人生で例えると。予約してた新作ゲームを早くお迎えしたくて、指折り数えながら眠れない日々を過ごし、販売日当日にはダッシュで帰宅。

 本当は店舗にて直接この手でお迎えしたいところだが……どうしても無理な時は近年のワンクリック技術で妹に受け取らせておいた包みを開け、そのパッケージをこの目で確認するまで続く……いとしさと切なさ……そして心の強さを試される、一種の試練と同じくらいである。


 え? 『お前ふざけてんのか?』って? ふざけてねぇよ。正真正銘、俺史上最大級の褒め言葉だぞ。


 それくらい、今の俺はキミーに癒されたいんだよ。


 は? 『なんでそんなに、癒されたいんだ?』って?

 はっ、そんなの決まってるだろ。




 俺の目の前には今、粉々に砕けて破片の塊になったものが一つ。


 その周りを取り囲む六人のうち、俺を含めた五人が気まづい表情を浮かべている、そんな中。残り一人はというと、どうしてこうなったのかという戸惑いと、目の前の現実の悲しみ……そして何よりも、今回に限っては『』という『不慮の事故』のせいで、誰にぶつけるのが正解なのか分からない……行き場のない怒りで呆然と立ち尽くしている状況なのだ。




 そう、つまり。


 このお通夜みたいな空気から一秒でも早く、全力で逃げ出したいからだよ……!!




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




 ――――――今から数十分程前に、事件は起きた……。――――――




「もーいーかーい」

「まーだだよー」

「……もーいーかーい」

「まーだだよー」

「…………アーユーレディ?」

「……ノー」

「オゥ……」


 俺と妹は、未だに終わらないロキとシラギクの白熱している姿を、ボーッと見ていた。

 いや、正しくは妹がやらかさないように監視しているのだ。断じて暇つぶしをしている訳では無い。


「ヒロくん、『しりとり』しよう! 『ん』がついて十秒たったら負けね! ルールはルーズに! はい、まずは『しりとり』の『と』からね!」


 まーた、この妹は唐突に。

 多少……いや、かなり面倒ではあるが。今、この妹様の相手をしなければ、何をやらかすか分かったもんじゃない。


「ねぇ……あえてツッコむが、なんで『と』からなんだ?」

「だって『しりとり』って、基本『り』からじゃん? だからあえて『と』から始めてみようかなって! かなっっって!!」


 妹のその言葉に、俺はドデカいため息をつく。


「テキトーな……」

「なんですと!?」


 俺の本音の一言に、妹が頬をふくらませてはプンスカプンと怒る。


「とにかく、お兄ちゃんはやるなんて一言も言ってねーからな。こう言う遊びは、頭のいい伊織くんにでもつきあってもらいなさい」


 俺は考えるのが面倒になり、頭のいい我が幼なじみへと変化球並のパスをする。


「いや、待ってください。なんでそこで私なんですか?」


 勿論、我が幼なじみは断固拒否する。

 それを見越してか、妹様はと言うと……。


「可愛い妹のために、意地悪言わないでよお兄様〜?」


 妹は俺を逃がさんばかりに、普段はしないような……まぁなんとも可愛らしく、上目遣いでおねだりしてくるではないか。


「まてまて、我が妹よ。こういう時ばっかり、都合よくお兄様扱いするんじゃない。ここは適材適所、イオにお願いしなさい」


 そんな妹に、俺は塩対応でそう返す。


「いや、だから私はやりませんって……」


 伊織の言葉の抵抗は、妹の前ではもはや通じず。


「手加減は無用! さぁ! かかってくるがいい!!」


 拒否権などないかの如く、妹は勢いで押し切ろうという戦法か。謎のポーズをキメながら、仕切り始める。


「いーやーだ。兄ちゃんは今日はもう、お前の相手するの疲れたんだー。イオが遊んでくれるって言ってるんだから、イオに任せるんだー」


 俺は妹に押し切られる前に、伊織に押し付ける作戦を全力で決行する。


「だから……」


 そんな理不尽をくらった、当の伊織はと言うと……。


「私やりません!!」


 そう怒鳴った。


「………………」

「………………」


 そんな伊織を、俺と妹はジッと黙って見る。


「………………?」


 伊織が怒鳴ってから、十秒がたち……。


「はーい、伊織くん、アウトー!」

「残念! イオの負けー!」


 そう言って俺と妹は、『うぇーい!』とハイタッチをする。


「………………はぁ?」


 何が起きてるのか分からない伊織に、俺と妹は解説を始める。


「『ん』がついて『十秒たった』ので、イオの負けでーす!」

「はぁ……?」


 妹の言葉を未だに理解ができない伊織に、俺はさらに説明を加える。


「お気づきの方がいるかいないかは知らんけど、先程の会話の全てが『しりとり』になってましたー!」

「はぁ!?」


 不満そうな伊織に、畳みかけるように俺と妹はもう一つのルールをおさらいする。


「ルールはちゃんと、最初に説明しました! 『ルールはルーズに』……ってね!」

「つーわけで。会話の最後から『しりとり』を始めてみた……ってことよ!」


 俺と妹の言葉に、伊織は何かを言い返そうとしている。が、どう言葉を返せばいいのか思いつかないのだろう。何度も魚のように、口をパクパクとするだけである。


「ちなみに『しりとり』云々の最初の会話からずーっと始まってました!」

「いやぁ〜、イオを誘導するのは大変だったなぁ〜」

「ヒナとヒロくんはたまにやるから、すごく不毛な争いになるもんねぇ」

「最終的には、只のレスバトルになるだけだもんなぁ」


 俺と妹が『うんうん』と、腕を組んで頷きあってる隣で。


「……会話を思い返せば、確かに初めから始まっていた気はしますが……そんなの卑怯ですよ!」


 と、声をあげる。

 そんな伊織に、妹は肩に手を置き……。


「イオ……時には素直に負けを認めることも、大切だよ!」


 などと、なんとも腹立たしい表情で親指を立てて言うのだ。

 伊織くんやぁ、伊織くん。お兄さんが許可を出すので、あの額に一発デコピンをお見舞いしてあげなさい。君はお兄さんより握力や指圧がないのは分かってるので、そこそこ加減しなくても大丈夫。お兄さんのデコピンを何度食らっても、悶えるだけだったから。日頃の恨みを込めて、思いっきりやりなさい。


 ……なーんて念を送ってはみるが、伊織は優しい子なので仮にこの思念が届いていたとしても、実行に移すことはないだろう。多分。


 なので伊織に変わり、俺が無言でアイアンクローをかける。


「な、何故……っ!?」

「あー、何となく?」

「お前らは……また何をアホなことやってんだ」


 妹が理不尽なアンクロを食らっていると、ひと段落したのであろうロキがため息混じりにこちらへと戻ってきた。


「ロキ! 話し合いはもう終わったの?」


 これまで俺たちを只々静観していたセージが、飼い主を全力で出迎える飼い犬のようにロキの元へと駆け寄る。キミゃあ本当に分かりやすくて、素直で可愛いやっつぁなぁ。


「まぁ、一応は……セージ、ウザい」


 少しの間シラギクとの会話でロキに放置されていた分、ロキが戻ってきたことが嬉しいセージを、ロキは容赦なく軽くかわす。お前にゃあ、人の心とかないんか?


「この間の魔獣騒動で、お前ら兄妹にも少なからず魔力や素質があるのは分かってはいたが……そこの目付け役みたいに一応、魔力量や属性について調べてみるぞ」

「よっっっし、きたぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!」


 俺は『その言葉を待ってました!』と、隠す気など一切なく腹の底から叫んでガッツポーズをする。


 俺のこの反応に対して、伊織とロキ、シラギクの三人が驚きとともにやや引き気味なのは気にしない! こんな人生一大イベントにはしゃがないほど、俺はクールでキザなオタクではないのだから!!

 場のノリと勢いに乗るっきゃないだろ! この魔力判定ビッグウェーブ


 俺はドキドキしながらも、水晶玉の前へと立つ。


「えっ、えっ? 本当に? 分かるの? 本当に分かっちゃうの!? 俺の魔力量と得意属性! えーっ、どうしよー? 正直、受験や就職活動よりドキドキしちゃうー。どんな属性だろー? やっぱりベターなものだと『火』、『水』、『風』、『地』のどれかかなー? レアなケースだと、無属性とかかなー? ねぇ、どう思うー? どう思うー? ねぇ、ねぇー?」

「うるせぇ、気色悪いからさっさとしろバカ兄貴」


 嫌悪感丸出しなロキの態度に、俺は水晶玉にゆっくりと手を伸ばす。


 どの属性が判明しようとも、俺の考えはただ一つ。


「元の世界に戻るまで、俺は全力で極める……!」




 そうして、水晶玉へと手が触れる……その時――――――!!




「おーかーえーしー……だぁー!」


 俺の手が触れ……ようとしたその時、妹の手が先に水晶玉に触れる。


「あ……あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”〇✕△↑↑↓↓←→←→!?」

「どや……っさ!」


 妹に先を越され、俺は言葉にならない声で叫ぶ。


「可愛い妹にアンクロなんて、よくないのですよお兄様」


 そう言い張る妹に、俺は膝から崩れ落ちながら呟く。


「お、おま……お前……だからって……それはねーだろ……」

「それに私も調べたいのだ、許せヒロくん」

「そう言えば、許されると思うなよ……」

「でも、イオを見た感じ調べるのはすぐみたいだから。少し我慢して、ね☆」


 妹が『テヘペロ☆』という感じで言ってくるので、俺は「そういう問題じゃねーよ! チクショー!!」と床を殴る。

 こんなの、いくら長男でも耐えられねーよ!!


「結果が分かったら、次はヒロくんのば……」




 ――――――ピシッ!




「『ピシッ』……?」

「今のなんの音……」


 俺と妹が首を傾げていると、後ろから動揺するような声が聞こえる。




 ――――――……ピシッ、ピキッ……!




「えっ、ちょ……ま、待ってください……えっ……?」

「お、おい、アホヒナ……今すぐその手を離せ……!」


 シラギクとロキが慌てるように、制止するよう声を上げる。




 ――――――ピキピキッ!




「え? なんで?」


 俺は二人の動揺が尋常ではないことに気づき、妹が触れている水晶を見る。すると、水晶は『赤』、『青』、『緑』、『黄』などの色を混ぜ合わせたかのように複雑に光っている。


「ヒナコ……おま……!?」

「え?」



 ――――――ピッ……パキッ!




 そして光る度にヒビが入る水晶が、一際大きく黒く発光し……。




 ――――――パリィィィイイン!!




 粉々に砕け散る。




「ヒナっ!? ヤヒロさん!?」


 慌てて駆け寄る伊織に、俺は「大丈夫だ……」と返事をする。


 幸いなことに。

 砕ける直前に妹を水晶玉から引き剥がし、そのまま俺が妹を庇う形で水晶玉へと背を向ける。妹が小柄なおかげで俺がいい感じに盾になった上に、砕けた破片が俺に刺さるほどの威力もなかった。ので、本日二度目の治療はせずに済んだ。


 まぁ、威力が軽減されたのは……険しい表情でこちらに手をかざしている、シラギクとロキが何かしらの魔法を使ってくれたのもあるかもしれないが。


 どうして水晶玉が砕け散ったのか、俺には分からない……が、これだけは言わせて欲しい。




「爆破オチなんて、サイテー……」




 ――――――そして冒頭へと、戻るのだった……。

お兄ちゃんは『妹が!』心配です

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