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「ということで、宵の辻を、琵琶の音《おと》が、響き始めたのだよ。初めは、風流なものだと、皆、屋敷の中へ流れ込んで来る琵琶の音《ね》に、聞き入っていたものだ」


守近は、我が子へ、昔の事を語っていた。


「まあ!それが、押し入る合図だったのですか!!」


守恵子《もりえこ》は、驚きを隠せない。自分が、産まれる前の都で、その様な、悪事が横行していたとは、初耳だった。そして、その、手際の良さや、準備周到な、所が、また、物珍しく思えていた。


「守恵子!父上のお話は、物語では、ないのだよ!その流れを組むはずの、琵琶法師が、正体を暴かれたのだ、ただでは、済まさないだろう。はては、屋敷全体を……。」


守満《もりみつ》は、母と妹を、怖がらせては、いけないと、口をつぐんだ。


「ああ、面がばれている分、相手も、焦っていることだろう。お前の言うように、押し込み強盗の域を越えるだろうね」


昔と、今は、違うからなぁ、と、守近は、再び、過去を振り替える。


──ある日、屋敷を囲む築地塀に、イタズラ書きがされる。丸だ四角だと、童子のイタズラ書きのようなものだった為に、油断して、大抵の屋敷は、そのまま、放置していた。


そして、その、イタズラ書きが、残っている屋敷が、襲われた。住人に、気の緩みがある。警備の詰めが甘いという、証を、強盗団に知らせてしまったのだ。


辻からは、琵琶の音が流れ、皆、其方へ気をとられている。そして、不思議な事に、琵琶の音と共に、賊は引き上げて行く。


「つまり、琵琶の音が、要《かなめ》、だったのですね。しかし、琵琶の音ごときで、皆、気を取られ、賊の動きに気がつかないなどありえますかねぇ」


と、守満がいった先から、ぷっーー、と、小さな音がした。


皆の視線は、守近にあやされるように、抱かれている、タマに、集まった。徳子《なりこ》は、とっさに袖で鼻を被い、守近も、うっと、声をだす。


「あぁ、タマ、こんな時に、お前っ……」


「ち、父上、意外と、人という者は、音に、敏感で、ございますなぁ……」


守満は、言って、袖であたりを扇いだ。


「しかしだね、この、タマは、何とかならんのかなぁ。いつまでたっても、正気に戻らないし、ぷっと、匂い付きの音まで発してくれる緩み具合。守恵子、単に、眠っているだけではないのかい?」


「あ!もしかして!」


「どうした?守満」


「タマは、父上では落ち着かないのでは?母上も、守恵子も、父上だから、正気に戻った。つまり、安心したからですよ!」


「あー、そういえば、父は、タマとは、あまり面識がないものねぇ。もしかして、タマは、私の事を知らないのかもしれないなぁ」


いう守近の視線は、守恵子に向けられている。


「あっ、そうですね。私といつも一緒にいるから、父上よりも……」


「はい、私も、その方が、うれしのですが。どうも、大納言様だと、緊張して、つい、腹に力を入れてしまい、この始末。面目無い話です」


眠っていたタマが、ニコリと笑い、語りかけてきた。


「ん?!わ、わ、わあー!」


いきなりの事に、守近は、動揺し、タマをほうり投げてしまう。


投げられたタマは、くるくると、器用に宙を舞って、ストンと、着地する。


「どうも、皆様をお守りする命を受けた、タマです」


太刀《かたな》を持った、丸顔の若人が、立っていた。


「あらっまっ、その面持ちは、確かにタマだわねぇ」


納得している徳子《なりこ》に、若人タマは、わん!と、犬の鳴き真似をした。

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