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チャキン
刀を整える。今のやつも弱かった。そんなことを考えていた時
風が止んだ。
森の奥から、黒い瘴気を纏った霊がゆっくりと姿を現す。
禍々しい存在感に、夜道 遥(よみち はるか)は思わず眉をひそめた。
「……上下ランク、か?」
ここは新入生の試験場。
中の下ランクまでの霊しかいないはずの森で、
現れたのは、規格外の強さを持つ異形の霊だった。
――考える暇はない。
霊は獣のように襲いかかってくる。
「ハッ!」
遥は刀を構え、霊力を刃に纏わせる。
白く輝く満月のような光が刀身に宿り、
一閃――霊の肩口を斬り裂いた。
だが。
「……硬い……!」
刃は通ったはずなのに、霊の体はほとんど怯まない。
逆に巨腕が振り下ろされ、遥はとっさに後退する。
大地が抉れ、土煙が上がった。
「遥くん、下がって!」
澄んだ声が響く。
隣に立つ赤花 梨亜(あかばな りあ)が、杖を高く掲げていた。
彼女の霊力は、桜色に輝いている。
その杖先から無数の花びらのような霊力が舞い上がり、霊を包み込む。
「霊縛――桜繋ぎ!」
一瞬、霊の動きが止まった。
「今だ!」
「……ああ!」
遥は刀を振りかざし、再び霊力を満ちさせる。
満月のような白光が、刃からほとばしった。
「月光斬!」
白と桜色の霊力が重なり、霊に直撃する。
――だが。
ズズズ……
倒したはずの霊が、再び瘴気をまとい、
その姿を再構築し始めた。
「まだ……倒れてないの?」
梨亜が思わず声を漏らす。
それでも、彼女は杖を握り直した。
「次、いくよ!」
「……了解」
梨亜は杖から、さらに強い桜色の光を放ち、
遥は刀を構え直して霊力を集中させる。
「――桜閃!」
「――月牙裂!」
桜色の奔流と、白光の斬撃が同時に放たれ、
霊を真正面から貫いた。
ズガァァァァン――!!
瘴気が四散し、霊は今度こそ完全に消滅した。
森に静けさが戻る。
*
「なぁ、今のやつ……」
遥は静かに声を落とす。
「……どう考えても、おかしいよね」
梨亜もまた、真剣な表情で頷いた。
この森には、上下ランクの霊など本来いるはずがない。
誰かが意図的に、仕掛けているのか――
ふたりはふと、森の空を見上げた。
昼間なのに、どこか不気味に薄暗い空だった。
遥の心に、ふと不安がよぎる。
(……奏太、大丈夫か?)
あいつのところにも、同じような霊が現れたら――。
その時、森の奥から。
「はるかー!! いたいよー!! こわいよー!! たすけてーー!!」
あまりにも調子外れな叫び声が響いた。
遥は思わず、ため息をつく。
「……バカか、アイツは」
木々の間から、ぼろぼろになりながら全力で走ってくる奏太の姿。
その後ろでは、彼のペアの生徒が叫んでいた。
「だから戦えって!!!」
「むーりー! あんなの聞いてないよー!!」
梨亜は、思わず小さく笑う。
「……元気そうだね、奏太くん」
「……まぁ、あいつらしい」
遥は静かに刀を下ろした。
だが、森に漂う不気味さは、まだ消えていない。
この森で、何が起きているのか――
誰もまだ、知らない。