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バトルの終わった森の中。
静けさだけが、二人を包んでいた。
「ふぅ……」
遥は一度刀を納め、目を閉じる。
そして、そっと手をかざした。
「――出てこい、翠珠(すず)」
月の光のような霊力が揺れ、
その中から一匹の小さな狼の霊がふわっと現れた。
白く柔らかな毛並み、澄んだ瞳。
「……かわいい」
梨亜がぽつりと呟いた。
普段は静かな彼女の、少し柔らかい声。
遥は少しだけ照れながら、
「……そうか?」
と視線を逸らした。
翠珠は梨亜の前までとことこと歩き、
首をかしげる。
「触ってもいい?」
「……ああ、嫌がらなければ」
梨亜がそっと手を伸ばすと、翠珠は気持ちよさそうに目を細めた。
「ふふ、優しい子なんだね、翠珠ちゃん」
「……お前も、使い霊とかいるのか?」
遥がふと、気になって聞いてみた。
すると梨亜は、
「あ、うん……いるよ」
と、静かに杖を構え、優しく呼びかけた。
「出ておいで、ルゥ」
淡い桜色の霊力が舞い、
その中から、小さな鳥の霊がふわっと姿を現した。
淡いピンクの羽根を持つ、可憐な鳥――名前はルゥ。
「この子、ルゥ。まだ小さいんだけど、一生懸命なの」
ルゥはピッと鳴いて、遥と翠珠に向かって小さく羽ばたいた。
翠珠もルゥも、静かな森の中で、
まるで友達になったかのように寄り添っていた。
「……かわいいな」
遥がぽつりと呟いたその言葉に、梨亜はふっと笑った。
「ふふ、でしょ?」
――戦いばかりのこの場所でも、
少しだけ、心が温かくなる時間が流れていた。