逃走を続ける拓真たちは、理恵の案内で地上へと通じる階段を上り始めていた。冷たい空気が次第に湿気を帯び、出口が近いことを感じさせる。
「あと少しだ……」理恵が先頭を走りながら振り返った。「外に出れば、車が待っている。」
「田中、あのUSBについて何か知っていることはないのか?」拓真が走りながら問いかけた。
田中は短く答えた。「あれにはすべてのデータが含まれている。それを公開できれば、政府の闇は白日の下に晒される。」
しかし、拓真の胸にわずかな違和感が芽生えていた。田中の言葉にはどこか不自然な間があったのだ。
「待て。」拓真が立ち止まり、険しい顔で二人を睨んだ。「どうして俺たちを助ける? それに、この計画を止めるために必要なデータを、なぜ敵が簡単に持ち出せる状態にしていた?」
田中は一瞬目を伏せ、理恵と視線を交わした。
「……鋭いな。」理恵の声が冷たく変わる。「もう隠しておく必要はないか。」
拓真が驚きに目を見開く間に、田中がポケットから小型の注射器を取り出し、亮太の首筋に突き刺した。
「おい、何を――!」拓真が叫ぶも、亮太は苦しげに声を上げてその場に倒れた。
「亮太!」拓真が駆け寄ろうとするが、理恵が銃を構えて立ちはだかった。
「動かないで。」彼女の口調にはもはや迷いはなかった。「理解したでしょ? 私たちは内通者じゃない。君たちを計画のために利用するのが役目だった。」
「ふざけるな……!」拓真の拳が震える。「お前たちもあっち側だったのか!」
田中が冷笑を浮かべながら亮太を引きずり起こす。「無駄なんだよ。君たちは最初から逃げられない運命だったんだ。」
「だが、そのUSBがなければ計画は破綻するはずだ!」拓真が叫ぶ。
理恵は嘲るように笑った。「USBなんて最初から存在しない。あれは罠よ。君たちをおびき寄せるためのね。」
「なんだと……?」
田中が亮太を拘束しながら付け加える。「お前たちみたいな適合者は貴重だからな。実験体として徹底的に利用させてもらう。」
拓真の心に怒りと絶望が渦巻く中、理恵が銃口を彼に向けた。
「さあ、抵抗するなら今が最後のチャンスよ。どうする?」
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